殺意を抱き手にかけるに誰かの意志など介在しない

・・・綾崎ハヤテにとって両親という存在は何であったのか?その問い掛けに対して以前なら文句を言いつつも明るく嫌いにはなれない存在です、みたいに言っていた事だろう。しかしもうそんな言葉を口にする気はない・・・
「やめてハヤテ!私達が悪かったわ!」
「これからは借金はこっちで返すようにするし、お前が頑張る必要はない!だから父さん達を許してくれ!」
「・・・駄目だよ、二人とも。そんな言葉で僕を止めた所で、この場をしのげたらまた逃げ出して金を借りて、それを僕に返させるように押し付けていくつもりだろう?そんなこと許せるわけないし、信じられるわけないじゃないか・・・今まで僕が借金返済の為に頑張ってる姿を見ることすらなく、自分達はどこかで遊び呆けて逃げて呑気に笑ってきたような人達の事なんか」
「「っ・・・!」」
・・・ほの暗い部屋の中で足の腱を刃物で切られて膝で立つしかない両親の必死の懇願の表情と声に対し、見上げられたハヤテが全く光が灯らない目と無感情な顔で否定を返しつつ血のついたナイフを向けてきたことに二人は盛大に顔をひきつらせた。ハヤテが決してここから自分達を逃すつもりはないと理解させられる様子に。






・・・綾崎ハヤテは生まれてから物心ついて少しした頃には親が作った借金を返すようにと押し付けられ、ほぼ逃げられたも同然な形で距離を取られる生活を送ってきた。そしてそんな生活を続けていく内に人間としてのスペックは向上していくが、精神は返せない億を超える借金にもう限界だとギリギリまで追い詰められ、一時はとある令嬢を誘拐してその身代金で借金を返済すると考えて行動するに至ったまでだ。

しかしその行動の果てにその令嬢に気に入られて借金返済の肩代わりをされた上で、その事を盾に取られて執事になることを命じられるという奇妙な流れになるのだが、ハヤテはその後の生活の事を心から楽しいと思うようになっていった。借金返済の為に馬車馬以上に余裕無く働くことは執事として従事していればいいと言われたこともあるのだが、周りの個性豊かな人々との交流をだ。

これはハヤテが借金返済の為に従事してきた中で普通の人々との交流など出来なかったからこそその執事としての活動の中で、ある意味異常にしか思えないような個性的な存在もいたがそれでもその人々の多数は優しくて暖かい人物達ばかりだったからである。自分が借金で執事という立場にいるからなんて事が些細に思えて、このままでいられるなら借金を返せた後でも執事として働きたいと思ってすらいた。

そしてそんな中でふとした事からハヤテは借金を返せるだけの金を手に入れることが出来た為、これで借金を返し終わったという喜びに加えて何ももう負い目もないままに執事としてこれからの生活を送れると思っていた・・・だがそんな中でハヤテの耳に届いたのはまた両親が億を超える借金をして、その返済を自身に丸投げしてきたという話であった。

・・・その話を聞いた時に様々な考えがハヤテの頭の中を駆け巡った。ここで踏みとどまらないと今世話になっている人々全てに迷惑になるであるとか、この環境にいれる為の公然とした理由になるなどの考えが・・・しかしそんな考えで誤魔化そうとすればするほど、むしろハヤテの中に沸き上がる気持ちがそれらの考えを凌駕していった。両親に対しての怒りに殺意が、それらを押し留めて我慢しようとする理性を。









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