兄弟の分かたれた道の選択 後編

(ようやく戻ってこれたか、ヴァンめ・・・死霊使いの言い分などに言いくるめられてしまうとは・・・そのせいでこちらは奴をなだめすかすのに苦労した上に、貴様が来なかったことからルークをアクゼリュスに送るための時間が遅くなったではないか・・・!)
・・・バチカルの謁見の間にて。
王であるインゴベルトの近くに立つダアトの大詠師であるモースは表面上は平然を装っているが、心中は盛大に苛立っていた。予定にないことを散々に起こされてきた上で、その予定を狂わされたということに。
(・・・だがまぁもうそれもいい・・・後はここでの話を終わらせてルークをアクゼリュスにさっさと送らせれば、それで預言通りに進ませる事が出来るのだからな・・・!)
だがすぐにモースは表情を歪な笑みに変えるのを我慢しながら内心で喜びを口にしていく。自身の望みである預言の達成・・・それが出来る時間が迫ってきているという状態なのだと。






・・・それで少しの時間が経ってヴァン達が来たということから、謁見の間の扉が開かれるのだが・・・
「なっ・・・だ、誰だあれは・・・!?」
・・・そうして現れたのはカイであり、ヴァンはその後ろにマルクト兵に捕縛され縄で縛られながらの形で付いてきていて、モースはどういうことだと驚きにたまらず声を漏らした。
「・・・驚かせてしまい申し訳ありません。私はカイランド=キスク=ガルディオス。マルクト軍にて大佐の地位にいる者です」
「っ!・・・その名は・・・ガルディオスの遺児と共にピオニー皇帝陛下の養子となったという・・・」
「はい、それが私です」
それでカイが謁見の間の中央に来て膝まずいて自己紹介する名にモースよりインゴベルトに近い位置にいたファブレ公爵が反応し、その言葉に肯定で返す。
「どっ・・・どういうこと、でしょうかこの状況は・・・い、いきなり貴方が現れたこともそうですが・・・な、何故貴方はヴァンをそのような形で引き連れているのですか・・・!?」
ただそこで動揺をしつつも何とか言葉遣いだけはギリギリ乱暴にせずに言葉を発するモースに、カイは立ち上がってそちらへと視線を向ける。
「実は私がこのような形でバチカルに来た事についてですが・・・ヴァン=グランツ、いえヴァンデスデルカ=ムスト=フェンデ・・・かつてのガルディオスに仕えていた彼を引き取ること及び、その所業に動機といった様々な事を白日の元に晒す為です」
「「「「っ!?」」」」
しかし次にカイが通る声で口にしたヴァンの本名と立場に加え自身が来たその目的に、インゴベルトに公爵にモースだけでなく周りの兵士達も一斉に驚愕せざるを得なかった。
(ヴァンがガルディオスに仕えていただと!?ど、どういうことだ!?市長はそんなことは一言も言っていなかったぞ!?)
ただその中でも驚きが圧倒的に大きかったのは、ヴァンやその周囲に関わりが大きくあるのに、今の今まで全く知らない事が出てきたモースであった。






・・・モースがヴァンがガルディオスに仕えていたという事実を知らないのは、実際の所はヴァンもそうだがユリアシティという場所の市長でありグランツ兄妹を引き取ったテオドーロという人物がそれらを黙っていたからだ。

テオドーロからしたならグランツ兄妹・・・いや、フェンデ兄妹はヴァンの言葉からユリアの子孫という事が明らかになった。ただそう明らかになりはしたものの、ホドの生き残りという肩書きが加わればいくらユリアの子孫とはいえ・・・いやむしろユリアの子孫だからこそ、様々な意味で大事になりかねない可能性が出てくる。

何せ当時は十二くらいの男児と記憶も持てないくらいの赤ん坊の二人なのだから、そういったことから様々に大人の都合で振り回されれば折角のユリアの子孫が潰れる可能性が出てくる。それも当時にモースのような輩が知っていたなら、テオドーロの思惑など知らぬとばかりにフェンデ兄妹を祭り上げてくるだろうと。

だからテオドーロは自身の名字に名前の一部を普通の名前のように名乗る時は名乗らせるようにして、ホド出身であることは兄妹共に隠すようにとさせたのである。決してテオドーロからすれば善意だけでない思惑からであるし、それを利用してヴァンが活動していく形でだ。そしてそれが今、白日の元に晒されたのである。他ならぬカイの言葉によって・・・









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