追憶は謀らずも預言を狂わす

「確かに俺は医者ではない。だが症状を見れば分かる。お前の体調不良は毒を盛られている物だとな」
「・・・え?」
告げられた言葉にシオンは呆気に取られる。今何と言った?毒?
「この手の症状は自覚出来ない分、本当の病気だと誤解しがちだ。だが表情を見れば俺には毒草特有の毒を盛られているとすぐにわかる」
「・・・毒?そんな馬鹿な?僕はこの年で死ぬって預言に・・・あっ!」
何を言っているのかわからない、動揺にかられているシオンは失言を漏らしたと気付き口を手で慌てて抑える。だが蔵馬はそれを見て目を細め、シオンの手を強引に引きはがし・・・
「!・・・あっ!・・・うぅん・・・んぐっ・・・!」
丸薬を強引にシオンの口に放り込み、近くにあったコップを掴み水をシオンの口に入れる。そしてシオンの口を自らの口で塞ぎ、鼻を摘む。行動の流れに逆らえなかったシオンは苦しそうにもがくが、蔵馬には成す術もなく息苦しそうな声を室内に響かせる。
(・・・飲めって事なのか・・・!?)
暴れもがいても逃がしてくれない蔵馬に、シオンは酸素が足りない状況でこの暴挙の意味を考える。強制された水を含んでの口づけの意味はそれしかないと思ったシオンはようやく薬ごとゴクンと、水を飲み込む。それを確認した蔵馬はようやく口づけの形を解き、シオンから離れる。
「・・・ハァッ・・・ハァッ・・・殺す気なの・・・君は・・・?」
呼吸を荒くして、シオンは冷ややかな視線に戻った蔵馬に怒り心頭といった真逆の表情になる。だが蔵馬は全く表情を変えずにシオンを見据える。
「どうせお前は俺の薬を口にしようとはしなかっただろう。だから強硬手段を取らせてもらった」
「だからって・・・なんで・・・僕の口をふさぐのが・・・あんたの口なの・・・?」
その瞬間を思い出したのか、ばつが悪そうに蔵馬から視線を外す。
「どうせ何で塞いでも水はあふれる。だがその点、口なら強制だとすぐに気付き素直に飲み込むだろうからという選択肢のひとつからだ」
「・・・ふぅ。君みたいな人初めてだよ。なんで会ったこともない、導師の位置にいる僕にこんなこと出来るの?」
何故こんな暴挙に出れるのか?数え上げればキリがないほどの不敬に、シオンは顔をあげて蔵馬を真剣に見る。
「さっきも言っただろう。アリエッタのためだ。お前が死ねばアリエッタが悲しむ。だからお前を治そうと思った、それだけだ」
「アリエッタ・・・あなたとアリエッタはどのような関係なのですか?」
「アリエッタは俺に偽りではない、人の純粋な思いを教えてくれた初めての人間だ」
「・・・人間?あなたは人間ではないと言うのですか?その言い方は・・・」
奇妙な言い回しにシオンはベッドから立ち上がり、蔵馬に詰め寄る。だが蔵馬は近づくシオンに初めて口元に軽く笑みを浮かべ、手を前に出す。
「これ以上の事を知りたいというならこれからは俺の持って来る食事と薬だけを口にしろ。教団から出されるお前の食事には毒が盛られている可能性がある。それが了承出来ないなら強制でアリエッタをここに連れて来て事実を話すが?」
「うっ・・・・・・・・・わかったよ」
恐喝を=で結び付けてもいい蔵馬の言い回しに、シオンは長い間を空けてぶすっという雰囲気で返す。ここにアリエッタを連れて来られたら全てが台なしになる上に、アリエッタを悲しませる事になる。その条件を飲むしかないと、シオンは考えたが故だ。
「そうか、ならしばらく治療を続ける。治療が済み次第今の状況から助け出してやる・・・それではまた夜に来る」
それだけ言い残すと、蔵馬は窓に手をかけて下へとあっさり飛び降りる。慌てて蔵馬の状況を見ようと窓に駆け寄り下を見ると、森の方へ一目散に駆けていく蔵馬の姿があった。






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