心臓に打ち込まれた罪の楔

「さて・・・と」
玉座に座り直すと、ピオニーはいまだ憔悴しきっているイオンに視線を向ける。
「導師・・・導師・・・導師!」
一回二回と声をかけてもなんの反応も見られなかったので、ピオニーは三回目で声を大きくイオンに放つ。するとビクッと反応し、ようやくイオンは意識を取り戻したかのようにキョロキョロしだした。
「導師、気がついたか」
「ピオニー陛下・・・」
「元に戻ったところいきなりで悪いが、導師の役割はもうない。フリングスを供に付けるからダアトに戻られるがいい」
「え・・・?何が起こったんですか・・・?それにティアにアニスは?」
どうやら話は憔悴しきっていたせいで全く聞こえていなかったらしく、イオンは辺りを見渡す。それを見て、ピオニーは顔を疲れていると見せないようにおさえる。
「・・・悪い、アスラン。別室で導師にショックを与えないように穏やかに状況を説明してやってくれ。今の俺だと何回も導師を現実逃避させそうだ」
ダアトの話をあそこまで聞かせただけで現実からおさらばするイオンに、アニスの事をオブラートに包んで話せる余裕はピオニーにはなかった。フリングスならば穏やかに話してくれると、ピオニーはジェイドとは違い清廉さで構成されている将に任せる。
「・・・わかりました。イオン様、別室で説明いたします。どうぞこちらへ」
「?はい」
訳が分からないといった表情ながらもイオンはフリングスに話を聞くべく、フリングスのエスコートで謁見の間を後にした。




「・・・ふう、これで和平の条件は満たしたか・・・」
イオンの姿が扉で見えなくなると同時に、ピオニーは手をどけ一息つきながらセシル少将に視線をやる。
「はい、これでルーク様も納得されると思います。ですが、まさかここまで綺麗に型にはまるとは私は思ってはいませんでした」
「・・・正直俺もだ」
互いをみやる二人は共通で、先を見通した策を渡してきたルークに対する慧眼に驚嘆しているという物だった。
「ダアトの仲介無しで和平、か。導師は何故だと言いそうだがそれはこっちに任せてくれ」
「はい」
これがダアトの仲介でとなれば預言からの流れの脱却の意味が薄れてしまう。この和平も預言に詠まれていたのではと言い出す輩が現れては意味がない。ダアトから離れねば預言からの脱却は一筋縄ではいかなくなるということで、ダアトは和平に顔を出させてはいけないとルークが和平の条件にだしたのだ。
「それでは私は失礼します。ルーク様に報告のため、バチカルに戻らせていただきます」
「ああ、感謝していると伝えてくれ。預言の戦争回避と、死ななくてもいい命が救われた事に、とな」
「はい、失礼します」
ピオニーの謝意の言葉にセシル少将は敬礼を返し、彼女は凜とした足どりで謁見の間を出ていった。








「・・・やれやれ、敵いそうにねぇなあ。ルーク陛下代理には」
自らの私室に戻ったピオニーはドアを開けて締めた瞬間、ブウサギに近づいて困ったように笑いながら頭を撫でる。
「けどまあこれで俺も目を覚まさなきゃいけねぇって気付かせてくれたんだ。代償は俺が払っちゃいないけどな・・・」
ジェイドの態度を増長させてしまった原因は明らかに自分との交流でそれを認めてしまったこと。注意を向けていればジェイドを失わないですんだかもしれない。
「・・・全部終わるまでは俺がマルクトの舵をとる。だからそれまではジェイド、勘弁してくれ・・・」
ブウサギを見て呟くピオニーの顔はただ泣きそうに、ただ泣けずに我慢して顔を歪めていた。






罪は罪、罰は受けねばならない



無自覚という罪は理解という罰を追加しなければいけない





END





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