善意が事態を好転するとは限らない

「・・・自分はこういう存在なのだという自負が強いことは別にいいだろう。だが自負があることとその存在がどのような物かを理解しているかに関しては別物だ・・・その点で貴女が王女としての自負がある上で王女として行動するなら、百歩譲ってこのアクゼリュスにまで来るとしてもそれなりの救助隊を伴わせて来るべきだった」
「え・・・救助隊・・・?」
だがトキはまだ話は続くのだと王女として救助隊を連れてくるべきだったと言うが、ナタリアはどういうことかと不安げに眉を寄せる。
「王女として正式な手続きを取れなかったであったり、謡将達に殺されていたのではないかと言った問題はともかくとしても、このアクゼリュスの状況から必要なのはただ一人だけの人員の追加より、出来る限りの数を揃えた人海戦術による救助だ。だが貴女にはその発想がなかった・・・自分がアクゼリュスに行きたいという気持ちのみを優先し、人を増やすことが住民が苦しむ時間が減ると言ったようなことなど考えることなくだ」
「っ!?」
・・・ここに来て単純にして、最も理にかなったトキの言葉がナタリアにハッキリと突き刺さった。自分が行きたいというだけで住民を救助する為の有効な手段を考えていなかったとの言葉が。
「無論、倒れている住民に駆け寄った貴女には人々を助けたいという気持ちがあったことは偽りではないのだろう。だが先程の譜術について考えていないこともそうだったが、貴女はあまりにも自分がこうしたいという気持ちを優先させ過ぎて、冷静に考えれば出てくるであろう案について考える余地がなかったというのはよろしくないことだ・・・それに確かに王女殿下までもがこういった土地にまで足を向けるというのは、普通なら慰問であったりなどには効果的ではあるだろう。しかし先程のように立ち上がることの出来ない程の重体の患者相手に王女殿下が来たからといって、意気が上がるどころかむしろ立ち上がらなければ無礼だと無理をさせる心積もりにさせてしまう事になる・・・正式に命じられたものならともかくとしても、勝手に来た貴女の存在に今の住民の状態を考えれば却って負担が増えただけだろう」
「!!・・・そん、な・・・」
ただ一応のフォローは入れつつもいかに自分の気持ちだけについて考え動いてきたのかと突き付けていくトキに、とうとうナタリアも呆然としたようにうなだれてしまった。いかにナタリアが冷静で頭を働かせていればいい結果が産み出せたか・・・それらをトキから嫌という程に思い知らされてしまった為に。
「ト、トキさん・・・そこまで言わなくても良かったのでは・・・」
「導師から見ればそう思われるかもしれませんが、医療に携わる者としても人をまとめる者としてもナタリア様の行動は看過出来る物ではないので言わせていただいたのです」
「医療としても、人をまとめるとしても・・・?」
そんな光景に流石にとイオンがどうかといったような声を向けるが、トキが揺るぐ様子を見せず返してきた言葉に怪訝そうな表情を浮かべる。









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