心臓に打ち込まれた罪の楔

「なあ、スパイって事実がばれちまった今、お前は無事に何事もなくダアトに帰れると思うか?」
「・・・え?」
「大詠師を手元に納めているレプリカルークが処罰を逃れて逃げ帰る場所を作るはずもないだろう。もしお前が罪を自覚せずにダアトに脱走したとしよう。そうしたら待っているものは何か?・・・それは大詠師の自白からもたらされた証言によりお前が導師を裏切り、大詠師に情報を流していたスパイという事実を一般信者にいたるまでに広げられたダアトだ」
「!?」
「教団内が二つの勢力に分かれているというのを理解しているのはあくまである程度上の人間が知っている事実だが、ただ一般信者までがそうだと知っている訳じゃない。そんな中崇められている導師を裏切った行動を取ったアニスはどうなるかはわかるだろう。間違いなく軽蔑どころではすまなくなる。最悪ダアトに姿を現した瞬間、事前に情報を知らされていた信者達からなぶり殺されるかもな」
「そ、そんな・・・」
「更にはスパイという罪は国際問題にまで発展した。ダアト内部での出来事だけなら俺達にそこまでする事は出来ないと言えるが、タルタロスの人員を殺す手引きをしたことでダアトからマルクトへの害意をはっきりと受け取った。もし情報を流してないとでも言えばまだ救いようがあったが、お前ははっきり情報を流したと言った。つまり、結果マルクトに害を与えても構わないと行動で示したようなもんだ。俺らマルクトがそれをむざむざ許すと思えるか?犯罪者をあっさりなんの償いもなく」
「・・・だ、だって両親を人質にとられていたんだからしょうがないじゃないですか・・・ちゃんと情報をよこさなきゃパパ達殺すって・・・」
「・・・両親?なら安心しろ。これからはモースの監視の下を離れる事になるからな」
「・・・え・・・どういう事ですか?」
消え入りそうな声で自らの罪はないものだと述べるアニスにピオニーは両親の身を安全なものだと言う。だがアニスはその声に嫌な予感を隠せない。
「二人は既にこのマルクトに来るようにしてある。今頃は船でここに来る途中のはずだ」
「・・・え?なんで・・・」



「人質だ。今度はマルクトのな」



ピオニーの言葉にアニスの時が止まる。だがピオニーはアニスから言葉が出る前に歯止めをかける。
「先に言っておく。お前の罪は到底死罪でも許されるものじゃない。だからこれはお前が一生をかけて罪を償う為の足枷だ。両親はあくまでもマルクトに行くのは預言に詠まれて大詠師から命じられたものだと伝えてある。お前のスパイの事実など知らずな。だがお前がマルクトから逃げ出した場合、二人はスパイの事実を知らされた後国内に大々的に情報を回した後処刑される事になる」
「!!」
「例え両親を見捨てたところでお前はその時点で各国に情報を回され、世界規模の指名手配犯になる。つまり命が惜しいならこのまま罪状に従うのが1番利口な選択だ・・・どうだ?今すぐ汚名を世界に広めて死ぬか、罪をあがない両親の安寧のために働くか、どっちにする?」
ピオニーは選択肢をあげてはいるが、これはゆっくり死ぬか早く死ぬかの違いに過ぎない。だがアニスは年の問題もあり、生きる事には貪欲であった。
「・・・そんなのマルクトにいなきゃいけないって言うしかないじゃないですか・・・」
明らかに不満げながらもアニスは生きる事を選ぶ。だがピオニーはその態度を見て、追加の言葉を放つ。
「・・・さっき両親が人質にとられていたからスパイは仕方ないとか言ったが、そんなこともう一回でも誰かに漏らしてみろ。そうすればお前の処刑が早まり、処刑執行人はタルタロスの兵士達の遺族になる。家族を殺されたのだから情報を渡したこいつは殺しても仕方ないと言われながら殺される事になるぞ・・・」
「ヒィッ!」
ピオニーの目は隠しもしない怒りと殺気がこもり、アニスにそれを向けている。いまだ罪を理解しきれていないこの女は今すぐ殺しても構わないと言っているように雰囲気だけでわかる。
「もういい、連れていけ。こいつの顔は二度と見たくはない」
あっさり怯えるアニスに、ピオニーは後ろを向き玉座に戻りながら手を振り退出させろと命ずる。フリングスの近くに来た兵士が拘束の体勢を保ったままフリングスから腕を受け取り立ち上がらせると、兵士はまだガチガチ震えているアニスを謁見の間から連れ出して行った。






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