兄と姉への想いと興味のない信仰

「兄さんの行動に関してはもう別に構わない・・・色々と知ってきたことだもの。けれど姉さんの事に関してはこの旅であまりにも酷いものだとしか思えなかった・・・自分のやってきたことはあくまでも兄さんとの兄妹喧嘩の延長で、兄さんに少し話をされただけですぐにその敵意も薄れてしまった・・・その時に理解しました。姉さんは単に兄さんが悪いことをしていないと本当に確認したいのではなく、信じたいというだけなのだと」
「確認じゃなく信じたい、か・・・甘いとかそういう以前に、単なる願望だな。だから都合のいい答えさえ返ってくれば、疑うのではなく望んでいた物が来たからいいと思考を放棄したということか」
「私はそう思っています。そしてそんな行動に巻き込まれたのかと思うと、少なからず不快な気持ちになりますし自業自得でもあると思います。現にモースは怒りを滲ませながら姉の事を口にしていましたので、姉はまず間違いなくアクゼリュスへと送られるでしょう。その意味についてなど深く考えないどころか、むしろ光栄な事を任されたのだというように意気揚々としながら」
「そこまで行くか・・・」
そのままティアに関して感じたことに起き得る事を話していくレオナに、クラークはたまらずサングラスの縁を押さえて顔を隠す。明らかに呆れているといった気持ちが表情に滲んでいるのを隠すように。
「ちなみにお前はアクゼリュスに行くようにとは言われたのか?」
「いえ、師団長の元に戻ると言ったら不快そうに反応した後に興味を失ったよう退出を命じられました。察するに別にそれなら私までまとめてそうさせる必要もないだろうと考えての事だと思われます」
「だろうな。別にそこまでレオナの事を重要視してなかったからそうしたんだろうが、お前の姉ちゃんはそれで自分に降りかかる仕打ちってヤツを理解してねぇのか?あのモースの性格を考えりゃあんだけの事を仕出かしたんなら、わざわざ笑顔を作って怒りを我慢しながら送り出すとは思えねぇぞ」
「姉さんなら怒られても汚名返上の機会を与えると共に、いかにも重要な事を任せると言われれば気持ちを取り直すと思います。兄さんへの気持ちには及ばないにしても、姉さんはユリアシティの住民・・・預言の事を切り出せば、まず疑うとは思いません」
「預言なら、か・・・ハッ。疑わねぇ事が強さだとか言われることもあるが、ろくに考えねぇままに信じた正義なんざ所詮盲信の域を出ねぇ脆いもんだ。目ん玉かっぴらかされて事実はこうだって突き付けられちまえば、ショックを受けて呆然とするか嘘だって受け入れることが出来ねぇのが大半だぜ」
それでまた入れ替わるようにラルフがレオナに質問を向けるのだが、姉を正確に見知ったからこその答えが冷静な口調で帰ってきたことに悪態をつくようにわざとらしく肩をすくませる。ティアがこうなる結果は見えていると。



・・・ラルフにクラークもそうだが、カンタビレ配下の兵士はそのほとんどが預言第一主義者の多いダアトの人間の中で、預言になど傾倒しないどころかむしろ気にしない人間達の集まりだ。預言と言うものが綺麗事だけでまとめられるような物ではないといった風に考えられるだけの経験を持った者達が集められた集団である。

それが故に預言保守派の筆頭であるモースから厄介者扱いされて僻地へとまとめて飛ばされた者達であるが、だからこそ預言だけを信じて預言に裏切られたと思ったような人物達など山程見てきた。そしてその絶望を与えてきた預言保守派がいかに悪辣であり、そんな者達に対してまともに取り合わないかも知っている。

だからこそラルフは確信にも近い考えが頭の中に浮かんでいた・・・もしティアが事実を知れば、口にしたような絶望のどちらかに陥るだろうと。









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