心臓に打ち込まれた罪の楔

「・・・何故?何故あなたたちに謝らなければいけないの?」
兵士の自らに向けられた言葉にティアは心底理解出来ないと、謝る必要などないという高圧的な態度で返す。だがピオニーはそのあからさまに理解しようとしていないティアに、ストレートに言い放つ。



「その兵士達はお前が屋敷に侵入した際に屋敷を警備していた白光騎士団・・・だった者達だ」



「え・・・だった?・・・っ!」
ようやく兵士達の正体を理解したのだろう、ティアは兵士達を見て絶句する。だが兵士達の憤りは収まっている様子はなく、代表者はピオニーに向かう。
「陛下、私は後で如何様に処罰されても構いません。ですが私達の気持ちをこの女に叩き込ませなければ私は死んでも死に切れません。途中言葉を乱し陛下を不快にさせるようで申し訳ないのですが、この女に私達の経過を聞かせてもよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわん。処罰などないから遠慮なく自由に言え」
「・・・ありがとうございます」
敬礼をピオニーに返すと代表者は怒気をティアに向けながら話出す。



「貴様、謝るとか言っていたがどうやって我々に謝罪するつもりだった?」
「・・・公爵のお屋敷に行き、謝ろうかと・・・」
「ほう、迷惑をかけたのは公爵邸だから中にいた白光騎士団に謝ろうとしたと?そんな言葉が白光騎士団を除籍させられた私達の耳に届くはずがないだろう」
「じょ・・・せき・・・?」
「当時屋敷に配置されていた白光騎士団のほとんどが除籍された。当たり前だろう、侵入者を見つけて相対する事すら出来なかった者達が貴族の警備を続けられるはずがない。いや、俺達はまだいい。貴様が侵入してきた正門の警備を担当していなかった分、除籍だけで済んだのだからな」
じゃあ正門は?と聞けるだけの心の余裕は既にティアにはない。除籍という処分だけで自らの行動の浅はかさを理解したようだ。だが代表者は言葉を止めるつもりはない。
「・・・正門の警備を担当していた奴らは全員処刑された。ルーク様の前に侵入者をむざむざ通し、あまつさえルーク様を屋敷の外に飛ばされたのだからな・・・本来なら当日の警備を担当していた俺達は全員処刑される予定だった。だがルーク様のエンゲーブから届いた口添えの手紙と正門の警備を担当していた奴らが処罰を自分達の首の代わりに軽減してくれと言わなかったら、一人残らず俺達は死んでいるところだった」
「そんな・・・そんなつもりで私兄さんを襲ったんじゃあ・・・!」
「貴様の言い分などどうでもいい!!」
耳を塞ぎ聞きたくないと逃避の形を取るティアに、代表者は怒声をあげてティアを萎縮させる。
「俺達に残された結果は主を守れなかったという結果だけだ!その結果の後の生活をお前は想像出来るか!?騎士団を離れた後は慣れない仕事を妻にまで支えてもらい、必死に食いつなぐ事を考える生活を!それをなんだ貴様は!謝れば許してくれる?ふざけるな!こうやってルーク様が俺達を兵士として引き戻してくれたからいいが、そうでなければ俺達は必死に暮らさなければいけなかったんだ!それを俺達の実情も理解せずに謝るだけで済ませるだと?許せるはずもないだろうが!俺達の仲間の命に生活を奪ってそれを理解しようとすらしていない奴なんかを!」
「・・・っ!・・・・・・イヤッ・・・イヤァ・・・そんな・・・そんなつもりじゃなかった・・・私はそんなつもりで兄さんを・・・許して・・・ねぇ・・・お願い・・・」



(・・・壊れたか)
地に腰を抜かしながらもティアは代表者に擦り寄り、顔の穴という穴から液体を垂れ流し、足にしがみつきながら謝罪を乞いている姿にピオニーは潮時だと代表者に視線を移す。
「もうこれ以上何を言っても無駄だろう。そいつはこっちで引き取るから貴殿らは別室で寛いでいる兵士のところで寛がれよ」
「ハッ!心遣いありがたく承ります」
礼を代表者が返して身を翻すと同時にピオニーは兵士に視線をやりティアの引きはがしにかからせる。



そして両脇を抱えられ、引きはがされたティアは謁見の間を引きずられながら脇の所にあった入口から連れ出されて行った。







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