悪意なき善意に一層の差を思い知らされる

「あっ・・・あぁぁぁぁぁぁっ・・・!」
「っ!?ど、どうしたナタリア!?」
・・・だが次の瞬間、涙を一瞬で瞳から溢れ出させて嗚咽に声を上げてナタリアは顔を手で覆い膝から地に崩れ落ちた。
そのいきなりの変貌にアッシュは常にない様子で慌てふためく。



・・・ナタリアの精神は実のところで、このベルケンドに辿り着くのがギリギリというレベルにまで追い込まれていた。バチカルで明かされた自分が本物の『ナタリア』ではないという事実に、家臣と思っていた人物から見捨てられたに等しい言葉・・・そこにミレーユと自分が比較されてミレーユを優先されたこともそうだが、そのミレーユに自分が助けられたばかりか、アッシュを正式に仲間として引き入れることに成功した。例えそれが完璧な形ではないにしてもだ。

ここでアッシュをミレーユが引き込めなかったとしたなら、まだナタリアはアッシュの前で崩れ落ちるなどという事態には陥らなかっただろう。いや、それどころかまだ希望を持てたかもしれない。そしてその希望とは・・・



「・・・ど、どうして・・・私と、お義姉様でこんなに差が出てしまったのですか・・・私が苦しい想いをしてもアッシュをこちらに、留まらせることは出来なかったのに・・・お義姉様はそれを達成されてしまった・・・!」
「っ・・・!」
ナタリアは絶叫気味の涙声で隣にいるアッシュに話す・・・と言うよりは独白に近い声を上げ、その中身にアッシュは非常に複雑だとばかりに表情を歪める。ミレーユが理由という事もあるが、何よりナタリアが苦しんでいるのは自分が原因である為に。



・・・自分が出来ないアッシュの説得はミレーユも出来ない。そういった希望である。

ナタリアはミレーユと比べられている事には周りの配慮もあるから気付いていなかったが、自分の実力に人気自体はミレーユに劣っていないか、もしくは自分の方が王族の血が濃いから上ではないかと元々は感じていた。だがバチカルで選ばれたのは自分ではなくミレーユ・・・偽物であるからこそという点が何よりの物であると言ってもだ。

そして更にナタリアを追い詰めたのが、ミレーユが身を呈して自分達を助けた・・・という人としても王族としてもあまりにも気高く、立派な姿である。この姿は弱っているナタリアから見れば自分がミレーユに劣っていると、そう自覚させるにはあまりにも十分な姿であった。自分は偽物の王女であって、ミレーユが本物の王女・・・そう考えさせられるくらいに。

ただそんなミレーユでも、アッシュの事はどうしようもない・・・ナタリアは内心そう思っていた。ミレーユも自分もアッシュを説得出来ないのだから出来ないことはある、実際に自分と差はないのだと。だがそれが・・・今こうやってミレーユ一人の力で覆されてしまった。それもアッシュを自分の為にと気遣われる形でだ。

・・・アッシュがここで仲間に加わること、それ自体はナタリアも嬉しさを感じない訳ではない。だがナタリアの精神バランスの崩壊という点で、アッシュの加入はナタリアにとって最悪の出来事となった。



「あぁぁぁっ・・・!」
「・・・すまない、すまないナタリア・・・」
そしてまた泣き出すナタリアにアッシュは困惑の色を混ぜつつも、自分が原因でもあるためにその体を抱き寄せつつ謝罪の言葉を静かに口にする。ただただ申し訳無いと、他者に対する恨み言など何も無いままに・・・









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