悪意なき善意に一層の差を思い知らされる

「えぇ。それで一応の納得はしてくれたアッシュはせめて自分でナタリアに説明をしたいって言ったから、こういう形で二人きりで話すようにすると約束したのよ。皆の前で話をすると横槍が入ってしまうのを嫌がることもあってでしょうけど、何よりナタリアの為に自分がどれだけの苦悩をして私達の仲間になるか・・・それをナタリアの為に話をしたいって言い出したから、私が皆への説明役を引き受けたのよ」
「そうだったのか・・・じゃあ今頃ナタリアはアッシュから話を聞いている最中と・・・」
「そういうことね」
ミレーユはそれで今二人が噺をしていると言い、ガイ達は宿の方を見る。今話が二人の間でなされているのだと。









「・・・と言うわけだ・・・今更虫のいい事をと言うように思うかもしれんが、ミレーユの言葉を聞けば聞くほど不安が大きくなっていった・・・だからこれからは俺も行動を共にする。お前を守るためにもな・・・」
「・・・それは・・・本当なのですか・・・?」
「あぁ・・・あの屑の事は気に入らんのには変わりはないが、それでもお前が殺される可能性が高いと言われて思い直した・・・だからこそ俺も我慢して動く。ナタリアの安全の為にあの屑に対する怒りを行動に表さないようにする形でだ」
「っ・・・!」
・・・場は変わり、宿の一室。
そこで話を一通りし終えたアッシュがナタリアの信じられないといった様子の確認に、言葉にすること自体が有り得ないとすら思われたルークへの我慢を口にすると更にナタリアは驚きを深めた様子を浮かべる。
(・・・意外に思われているのは分かる・・・実際に俺もあんな屑と行動を共にせねばならんと思うと気分が悪い・・・だがミレーユの言葉通りにさせんためにはこうすることが一番・・・そう思って今この場にいるんだからな、俺は・・・!)
そんなナタリアの表情を見ながらその反応はどんな理由から来るものかを理解しつつも、内心でルークに対しての我慢と共にミレーユの言葉への信頼を匂わせる気持ちを滲ませる。



・・・ミレーユはアッシュに特別好かれているとも嫌われているとも感じてはいなかったが、アッシュからしてみればナタリア程ではないにしても尊敬出来て優しい義姉であった。ただナタリアと違い自分の婚約者でない事であったり、会える回数が少なかったことからそういった気持ちを伝えるような機会が無かったことから、ミレーユにそれが伝わることはなかったのである。

そしてそんな印象だが、七年経って久し振りにミレーユと会った時にもそれは変わることはなかった。ただルークに対しての態度に関しては苛立ちというか不満を覚えこそしたが、前と変わらない年上としての余裕に満ちた態度と話し方に却ってやたらとルークに対して怒りを見せることが、自分の小ささに幼さを理解させられているような・・・そんな気分になってしまったが為に、ミレーユの前でルークの悪口を率先して言う気は次第に無くなっていった。

・・・そんな風にミレーユに対して悪くない感情を持っているアッシュだが、先のバチカルから逃げ出した際のミレーユの危険性についてを話された際にはその中身に驚かされたこともあるが、何よりもそのミレーユらしくない物言いに驚かされた。ミレーユは基本的に強い言葉を使わないのだが、ナタリアの事で下手に関わらないならもういっそわずかでもこれから近付くな・・・と言ったように言われた為に。

だがそんな常らしからぬミレーユの態度が逆にナタリアが本当に危ないと言うことをアッシュに理解させた・・・ミレーユが嘘や大袈裟でそういった事を言うようなタイプではないこともあるが、何よりも実際にナタリア達は死を望まれた前歴がある・・・だからこそミレーユは真剣にそう言ったのだと。

・・・故に判断を強いられた事もあるが、最終的にルークへの怒りを優先するよりナタリアの安全を優先すると決めたのだ。ナタリアの為にも、そしてミレーユが自分を信頼してくれるならばこそそれに報いる為にもと。









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