悪意なき善意に一層の差を思い知らされる

「ただ誤解の無いように言わせてもらうなら、私はルークを見捨ててまでアッシュに戻ってほしいとは思っていないわ。むしろ皆が仲良くなれるならそれでいいと思ってる」
「ミレーユ姉はそう言うけどよ・・・あいつは俺に対してそんなことなんか微塵も思ってないだろ・・・今までの事を考えるとさ・・・」
「あ~、だよね~・・・アッシュがルークの事を認めるなんて思えないし・・・」
ただミレーユは誤解の無いようにと補足を入れるが、アッシュについての不安を口にするルークにアニスも同意を示し、周りも似たように感じているといったように頷く。
「・・・その事に関しての説得には苦労したわ。でもそれだけナタリアの立場がまずいことに加えて私がこう言ったらアッシュは苦い顔をして、長い時間をかけて考えながらも最終的には了承してくれたわ・・・『もしもうナタリアに対する気持ちも残ってなくて彼女が知らない内に死んでもいいと言うなら、ベルケンドに着いた際にハッキリとナタリアに別れを告げる言葉を告げてほしい。でもそうでないというならキムラスカにナタリアの為に戻ってほしい』・・・とね」
「・・・それでアッシュが納得したんですか?失礼ですが、そのくらいでアッシュが決断するとは思えないのですが・・・」
「勿論それだけではないわ・・・アッシュにはこうも言ったの。『もしベルケンドに着くまでに答えを出せなかったり、答えを濁して逃げるような事をするならその時点で貴方にはキムラスカに戻る気持ちもナタリアに対する想いも無くなったとして、ナタリアには貴方の事を諦めてもらうように話をする』・・・とね」
「・・・成程。アッシュのナタリアに対する想いを逆に利用した訳ですか」
「あまり気持ちの良くないことを言ったという自覚はあるわ。アッシュの想いを利用するような形の事ばかりを言ったのだから・・・でも今さっき言ったナタリアの危機についても併せて話をした上で、アッシュでなければナタリアを助けられないだろうということも言ったわ。多分間違いなくその事も言わなかったら、俺はもうキムラスカには戻らんって意地を張っていたでしょうから・・・」
「ふむ・・・意地を張ってナタリアに実質の別れを告げてしまう事と、そのナタリアの危険性を天秤にかけさせたと言うわけですか。もし意地を張ったなら助けられたかもしれないナタリアを自分が殺してしまうことになるかもしれない・・・そういった危機感を抱かせる形でね」
その上でミレーユはアッシュに対して何を言ってきたのかについてを詳しく話し、ジェイドはその中身に納得と言ったように漏らす。分かりやすいナタリアへの気持ちを未だに抱いているアッシュに対し、確かに有効な手段ではあるというように。
「そう・・・そしてアッシュが出した結論は今ナタリアと二人きりになりたいと言ったことから多分判ると思うけれど、答えはキムラスカに戻る・・・よ。ただ今の選択肢の話をした際にはそれだけじゃなく、私やナタリアだけじゃなくルークとも仲良く・・・とは言わなくても、最低限喧嘩をしないようにとも言ったわ」
「えっ?でもアッシュがルークにそんなこと守るなんてとても思えないんだが・・・」
「・・・その辺りに関しては少し説明が長くなるから省かせてはもらうけれど、そうしてはいけない訳を説明したら本当に嫌そうな顔こそしていたことはしていたけど、ナタリアを守るためには仕方無い・・・相当に我慢するような表情を盛大に浮かべながら了承をしてくれたわ」
「・・・そう聞くとどれだけ嫌なんだよって言いたいけど、それでもアッシュがそう決断したって考えるとすごいな・・・」
ただそれだけじゃなく口約束という形で詳しく説明するのを避けた形とは言え、アッシュからルークと喧嘩をせず一緒にいることを約束させたというミレーユにガイは本当に意外そうに驚く。アッシュがそうするとは思っていなかったといった様子で。









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