心臓に打ち込まれた罪の楔

「お、俺・・・?俺が一体何をしたって言うんですか!?」
強いて今あげるでもないが、敬語をピオニーの前でも最上級に使っていない事。これだけでも十分ガイを見捨てるに足る理由になっている。
「それは俺よりも・・・セシル少将、頼む」
「はっ、ガイ・セシル。お前はルーク様への普段の態度から来ている・・・二人きりの時は必ずという程口調を馴れ馴れしい物に変えていたらしいな?」
「そ、それは・・・」
「許可もとらず、何故そのようにルーク様に不敬を働いた?ルーク様は何度かお前をそれとなく注意したが、全く気にかける様子はなかったとおっしゃっていたぞ」
「・・・同じ年頃の人物が周りにいなかったから友達として接して欲しいと思ったのではと、俺は思っていました」



事実一番長い付き合いはガイ。だがルークはガイに友情というものは抱いてはいなかった。「言葉遣いを改めたらどうだ」などとうすら寒い笑みを浮かべた状態で言ったのにも関わらず「ハハハ、何を言ってるんだ。友達なのに何故敬語で喋らなきゃいけないんだ?」と脳天気に笑みを浮かべ、全く改める様子もなくルークにずっと接して来た。



「ルーク様は礼儀を知らない人間をこれ以上近くに置きたくはないと言われ、マルクトで使用人としての礼儀を一生をかけて教えてもらえとガイ・セシルに伝えろとおっしゃいました」
「・・・なっ!?」
「という訳だ。だが見た所すぐに使える感じはしない。しばらく使用人としての礼儀を叩き込んでもらうんだな」
「まっ、待って下さい!!」
事実上のクビ宣告と再就職先からの上司の言葉にガイは待ったをかける。
「セシル少将お願いです。ルークに、いやルーク様にかけあって下さい。今度はちゃんとします、お願いです・・・」
必死に訴えるガイの顔は事情を知らない者には同情を呼ぶが、セシル少将は全くその顔には気に止めずに言い放つ。
「様付けで自然に呼ぶ事も出来ない者に使用人としての役割など果たせるはずもないだろう。それに元々お前はただの使用人、ルーク様には口を出せる身分ではない。身の程を知れ」
冷たく放たれる言葉、だがこれ以上言うようなら心胆から占める絶命の言葉を発する用意はある。一応ルークからここまでは言ってもいいという限度まで来たが、セシル少将もこれ以上の抵抗を見せるようならすぐさま口を封じる取っておきを出す用意をしていた。
「・・・口を出せるだけの身分は俺にはあります」
俯きながら発せられる言葉には一種の決意がこもっている。だがその決意が誤った決意だと知らず、セシル少将は何事なのかと身構える。
「使用人としての俺が駄目だと言うなら、俺は身分を明らかにします・・・俺の本当の名前はガイラルディア・ガラン・ガルディオス、今は崩落してしまったホドのガルディオスの生き残りです」
その言葉に謁見の間がざわつく。反応からしてあれがガルディオスの生き残りなのかという声が多い。その周りの驚きに乗るようにガイはピオニーにまっすぐ視線を向ける。
「使用人としての俺ではなく、伯爵としての俺ならルークと対話することは出来ますよね?」
そうでしょう?と希望に満ちた視線にピオニーは逆に、失望の瞳をガイに向ける。
「・・・お前、それ本気で言ってるのか?」
「はい!」
「・・・失礼、陛下。よろしいですか?」
ルークと対話が出来ると信じて疑わないガイの発言に、セシル少将が絶句していた状態から立ち直り発言の許可をピオニーに願う。
「・・・ああ、どうした?」
「もしガイ・セシルが本当にガルディオスの生き残りだとするなら、尚更ルーク様に合わせる訳にはいきません」



「ルーク様は夜、寝室に刃物を手にしたガイ・セシルが何度も忍び込んで来たとおっしゃっていました」



セシル少将からの言葉に希望に満ちた眼を一気に驚愕の眼へと変えるガイ。
「・・・これはガイ・セシルが非を悔いて素直に使用人としての役目を果たすというならセシル少将の心の中でなかった事にしてくれとルーク様は言われました。ですがガルディオスの生き残りという事実を知った今、このことは私の中にだけ納めてはいけないと思い事実を明らかにさせていただきます」
知られていた、そう顔には血の気を無くした青で彩られていることからわかる。どうやらガイはガルディオスの名前を出せばルークと会話を出来ると思ってしまっていたようだ。だが、自らの考え無しの発言は自身最大の過ちを犯したのだとまではまだ理解していないようだ。








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