悪意なき善意に一層の差を思い知らされる

「ここは私が食い止めるわ!だから貴方達は早く逃げて!」

・・・苦手としつつも高潔でいて義理という間柄ではあっても、尊敬している姉が自分達の為に身体を張ってくれる有り様・・・

「・・・ダアトにより騙されていた我々が言うべき事ではないと思うかもしれませんが、王族の血を引いていない存在と薄いながらも確実に引いているミレーユ様・・・どちらを選ぶかと決めた結果です。せめてもの情けとして王族のままに死なせて差し上げましょう。後はミレーユ様にお任せしてください」

・・・かつては自分の事をナタリア様と呼び、敬ってくれたはずの存在。だが感情が見えない表情で義理の姉を優先させるとハッキリ言われたこと・・・

「・・・すまなかった、ナタリア・・・ミレーユの言う通り、こうやってちゃんと向き合うべきだったな・・・」

・・・そして本当に愛する者からかけられた言葉は、義理の姉がいたからこそというもの・・・様々な事が重なり・・・

「・・・あぁぁぁぁぁっ・・・!」

・・・ナタリアは瞬時に涙を溢れさせ、嗚咽に声を上げた。
























「ミレーユ姉!無事だったのか!」
「えぇ、心配をかけたかしら?」
「心配なんてもんじゃねぇよ!叔父上達はミレーユ姉の事を殺すつもりはないなんて風に聞いちゃいたけど、あんな別れかたをしたら嫌でも殺されるとか捕まるとか思ってしまうよ!」
「ふふ・・・でもこの通り、私は無事よ」
・・・ベルケンドの街の中、髪を短く切ったルークは前のままのようにテンションを上げてミレーユに話し掛け、ミレーユは笑顔を浮かべる。平気だったと至って前と変わらない様子で。
「・・・ですが驚きましたよ。こうやってベルケンドまで逃げてこれたこともそうですが、アッシュと一緒にここまで来るとは・・・」
「・・・御託はいい。それよりナタリア、少し話がしたい。俺と宿に来てくれ」
「わ、私にですか・・・?」
続いてジェイドはミレーユの側にいるアッシュに話題を振ると、構わずナタリアに話があると返した事に動揺する。と言っても喜びから来る動揺ではなく、戸惑いの面が強いが・・・
「あぁ・・・ダメか?」
「い、いえ・・・ですが、他の皆様は・・・」
「私がどうなったかについては話をしておくわ。だから二人はゆっくり話をしてきてね」
「っ・・・分かりましたわ・・・では行きましょう、アッシュ・・・」
アッシュはそこで今まで見せてきた姿からは考えられないような様子で少し不安げに確認を取り、ナタリアは周りに不安げに確認を取ろうと見渡すとミレーユからの了承が返ってきた事に一瞬ピクリと反応した後にアッシュと共に場を後にしていく。
「・・・今までにないアッシュの反応でしたが、貴女が何か言ったのですか?アッシュに対して」
「確かにそうだな、旦那・・・例えナタリアが相手とは言え、アッシュがあんな風な顔を見せたのは意外だったが・・・」
「・・・ここに来るまでにアッシュに話をしたの。色々と複雑な事情があることは私も知ってはいるけれどそれを乗り越えてもらうためにね」
「乗り越えてもらう・・・?」
その光景を見届けた後にアッシュの態度が変わったと指摘するジェイドにガイも同様の意見だと声を上げると、ミレーユが複雑そうに口にした乗り越えるとの声に一同は揃って眉を寄せる。どういうことなのかと。









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