漂流魔王、異物として深淵世界を変える 後編

「それで、この後の展開だが・・・ダアトもそうだが、ヴァン率いる神託の盾はどう出ると見ている?」
「まぁダアトは表向きは知らぬ存ぜぬで、自分達はキムラスカやマルクトに反意を持ってはいないって言ってくるのが第一だ。少なくとも自分達からこっちに攻めてくるような事はしねぇよ。ヴァンがこっちの手元にいるのもあってな」
「では現在、そのヴァンの神託の盾はどこにいるかは把握しているか?」
「情報によると、バチカルの近海をうろうろとしているんだとよ。ま、この辺りはヴァンにどうにか接触したいと思ってるのと今のダアトが置かれてる現状を知って立ち往生してるの半々って所だろうな」
「ふむ・・・ではそろそろ動くのか?」
「まぁな・・・この戦で有利なのは間違いなく俺らじゃあるが、あいつらがすんなりダアトに戻りゃ手こずるのは避けられねぇ。なら動くのは今しかねぇよ」
続けてインゴベルトがこれからの事についてを聞き、ヴァン率いる神託の盾に関して行動すると信長は笑顔を浮かべる。獲物を狩らんとするような獰猛な笑みを・・・




































・・・それから数十日後、ダアトはどうにかキムラスカにマルクトと渡りをつけて戦争を回避しようと何度も手紙なり使者を送ったが、一度も取り合われることはなく・・・宣戦布告の手紙を受けると共に、キムラスカとマルクト両軍の船がパダミヤ大陸に近付いてきているとの報告を受けた。



「くそっ・・・とうとうここまで来てしまったのか、奴らは・・・!」
「大詠師・・・最早戦を避けることは出来ません。それでも戦を止めたいというのであれば、両国に降伏する以外の道はないかと・・・」
「降伏だと!?何故ダアトが降伏せねばならんというのだ!預言により世界を導く立場にいるダアトに対し、攻撃を仕掛けるような愚か者達に対してなど!」
「・・・」
・・・大詠師の部屋にて、焦りと苛立ちを盛大に浮かべるモースとその対面に無表情でいるリグレット。
そこで戦いを避けるなら降伏と述べるリグレットにモースがプライドを盛大に滲ませて一蹴したことに、そっと目を閉じる。
「それよりヴァンがいない今、貴様が指揮を取って奴らと戦わねばならぬのだ!ここで負けることなど許さぬぞ!もし負けるようなことになればヴァンを取り返すことも出来んのだからな!その事を忘れるな!」
「・・・はい、分かっています」
それでモースはリグレットに苛烈に命を下すが、頭を下げるその姿には一切の熱がないと言うことに血が上っているモースは全く気付けなかった。


















・・・そんなやり取りがダアト内で繰り広げられた一日後の事、両国とダアトの戦争が開始された。だが元々ダアトの保有する戦力である神託の盾は質はまだしも兵の数においては両国が合わさった兵の数には遥かに劣っている上、両国は近付いて攻撃するような事はなく砲撃や譜術などを雨あられのように浴びせる物量に物を言わせた遠距離戦で戦われて、神託の盾は一気にボロボロにされた。



「・・・予想以上ですね。ここまで一方的に戦えるとは・・・」
「当然だろ、むしろダアト相手に苦戦する方がおかしい」
・・・それでパダミヤ大陸より多少離れた船上で、ジェイドと会話をする信長は自信タップリの笑顔を浮かべる。
「どうしてそう言えるのですか?」
「簡単な事だ。ダアトと言うか神託の盾には兵の数がない以上に、自分達が攻められる戦ってヤツの経験が教団の設立以降に無いことだ・・・守りの戦ってヤツは攻めるより有利なんて言われているが、その実は守るってことをしたことがなけりゃ守りきるのは攻めるより難しい。その点で言うと神託の盾は戦があってもどっかに攻めてこられるような事はなく、精々がホドの時のように第三者として介入するか魔物の討伐が主になるような代物だ。そんな戦ばかりしか経験してねぇような奴らがいざ守りの戦をしようなんざいきなりやってもうまくいくわけねぇよ」
「成程・・・ダアトが攻められるという前代未聞の事態に動揺していることもあるでしょうが、経験そのものがなければどうしようもないということですか」
「そういうこった」
ジェイドが理由を問うと守りの戦の経験が無いことと返した信長に、ジェイドも自身の推測も交えて納得する。ダアトは確かに守りの戦の経験は無く、両国相手に兵力差もあって十分に戦えるような要因はないのだと。









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