漂流魔王、異物として深淵世界を変える 後編

「・・・さて、そうと決まれば早速キムラスカに手紙を送りましょうか・・・ノブナガ様なら私の本音をつづれば、こちらに害意はないと分かっていただけるでしょう・・・まぁそういったことも含めて私が行動すると知りながらこちらに手紙を送ったのでしょうからね、あのお方は・・・イヒヒ・・・」
アスターはそこで一先ず冷静に事を進めるようにしようとトーンダウンすると共に、信長に対する一種の信頼と理解を口にしながら自身の私室へと向かう。



・・・そう、アスターにきっかけを与えたのは当然というべきだろうが信長である。

アスターは信長という人物の事を好ましいと思うと同時に、やりやすい人物だと前に何度か会った時から感じていた。他の貴族や役人であったなら自身の儲けや名誉に預言を第一にしてケセドニアの発展など三の次以下の優先度にしか考えない発言しかしなかったが、信長はそんなことなど微塵も感じさせぬような案をアスターに出してきた。ケセドニアにとっても得がある案をだ。

それが純粋にケセドニアの事だけを思っての発案でないのは、キムラスカの純利益を上げる目論見もあると見ていたことからアスターも分かってはいる・・・だがアスターからすればそのようなことをする人物がいることが意外だということと同時に、嬉しくもあったのだ。預言など関係無く政治を行うばかりか、革新的な考えを持つ人間がいることが。

故に信長の事を好意的に感じていたアスターはキムラスカからの通達で送られた手紙とは別に、信長名義で出された手紙の内容とその指示に従うことを即決した。何故かと言えば盲目で闇雲に相手を大丈夫と信じることは愚かな事だと思うが、それ以上にキムラスカからの手紙の中身も併せて考えれば戯言や嘘だと一蹴する方が愚かだと感じたからだ・・・預言の中身についてモースは事実を知っている上で何も知らないように振る舞いながら、預言の通りにしようとしている。それにあえて踊らされたいなら止めはしないが、そうなりたくないと考えた上で関与しているかを確かめたいのであればこういった揺さぶりをかけてみろ。モースならその揺さぶりに確実に動揺するから、その反応を見てどうするかを決めろ・・・と言った、手を出さねばその時点で愚か者と認定されるだろう中身を受けて。


















・・・そのようにしてアスターがモースを試した日から数日後のバチカルへと場面は移る。



「・・・順調だな、ノブナガよ」
「あぁ、そりゃな。イオンにモース、特にモースがいなけりゃこんなもんよ。あいつらがバチカルから出てすぐさまナタリアの事実を含めて大々的に演説って形でこの街の中に盛大に広め、ローレライ教団とダアトに所属する奴らを船に乗せてとっととケセドニアに追い払い・・・その隙にアクゼリュスの救援もルーク達がカイツールを発ってからすぐさまデオ峠を使って両国共同で行い、住民の救助も終わらせた。まぁヴァン率いる神託の盾の邪魔こそありはしたが、イオンの奪還が主軸の狙いだったそいつらがアクゼリュスの方にまで気をやるなんて有り得なかったからな・・・おかげで神託の盾の邪魔もそうだが、警戒やら報告なんかもされた気配もなく事は進んだ。これで預言通りになる展開にならなくなるってのもだが、表向きのマルクトとの和平も条件を満たして晴れて同盟関係を結ぶのに障害が無くなったって事になる。これが順調でなくてどう順調かと問いたくなるくらいだ・・・!」
・・・インゴベルトの私室にて、クリムゾンを隣につけるインゴベルトの喜色が多少こもった声に信長もまた多大な笑みと喜色がこもった声で返す。様々な事が思い通りに進んでいるという喜びを滲ませ。









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