漂流魔王、異物として深淵世界を変える 後編

「戻りましたか、ダアトに・・・イヒヒ、本当にノブナガ様の思う通りの展開になりましたな」
・・・そして一人残ったアスターは先程までの真剣な表情を崩し、いつものいやらしい笑いと共に信長の名を口にした。
「始めは私も書状の中身を真実と思えなかったクチでしたが、ノブナガ様が書状に書いた通りの事を口にしたら大詠師はあからさまに態度を変えた・・・あれでは自分がそうしたと、関わっているのだと明かしたも同然ですよ大詠師・・・イヒヒ・・・!」
そのまま商人として、本人の素質として磨かれてきた人を見る目を最大限に発揮し・・・モースの反応が預言を実行した物だと感じ取り、更にいやらしい笑みを深めた。
「これで決めさせていただきました・・・ダアトには悪いですが、我々ケセドニアはキムラスカとマルクトにつかせていただきましょう。預言の中身が嘘でないことに、キムラスカが本気であることを確認したのもありますが・・・何より戦争など私は望んでいないのですからね。特にマルクトが負けるという中身・・・やり方次第ではうまく立ち回ってケセドニアに儲けを出すことも出来なくはないでしょうが、マルクトが滅びるまでとなれば世界の食糧事情を担うエンゲーブも相当な被害を受ける事は避けられません・・・そうなれば儲けを出すどころか損になる可能性の方が非常に高いばかりか、食料の安定供給すら難しくなるのは避けられず、更には大詠師の性格を踏まえるとダアトに優先して食料を出せと命令しかねませんからね・・・そうなってしまえば戦争が終わった後も我々ケセドニアが背負うことになる負担は相当な事になり、戦争をけしかけた大本であるダアトはキムラスカとマルクトの結果を見届けるくらいでさしたる被害も疲弊もなくただ実益を食むだけの存在となる・・・食料事情一つだけを取って見てもケセドニアの苦難が見えているのに、あえてそうしようなどという気になどとてもなれませんからね・・・イヒヒ・・・!」
そしてキムラスカ側につくと決断の程を口にした上でケセドニアという立場から考えていかにダアトが不利益を生むのかとエンゲーブを引き合いに出してシミュレートしていき、損以外有り得ないからこそと言ってまた一層に深く笑う。



・・・アスターの性根は芯から商人である。人に対する情が全くないというわけではないが、それでも優先すべきは最終的な目で見て損得どちらに傾くかという商人ならではの考えが根底にある・・・そうハッキリと人前で口にこそしたことはないが、預言と天秤にかけても損得の方が重くなるくらいにだ。

そんなアスターからしてキムラスカよりもたらされた情報は、今後のケセドニアの命運を左右する意味でも決して無視できない程に大きな物であった。キムラスカの言葉が真実であればダアトに今後友好的に関わることは命取りになりかねなく、それが嘘であって状況がキムラスカの不利に傾いた時にそちらに寄っていればダアトの後ろ楯を得て活動しているケセドニアは一気にその立場を悪くする・・・どちらを選ぶかを誤れば、自身の立場も含めて危険に陥るのは目に見えていた為に。

尚、どちらを選択することもなく中立を選ぶという選択肢はアスターはハナから除外していた。ケセドニアはキムラスカとマルクトの国境をまたぐ形で存在している街でダアトに行くための港もあり、各国の輸入に輸出の元締めともなっている街・・・そんな場所であり各国に顔が利くアスターが無関係を貫くのは難しいどころか、むしろこのケセドニアが重要な場所になると感じたのだ。国境があり中立地帯でもあるこの街が、以降の展開で何も求められないなどといったことにはなり得ないと。

故にアスターは試したのだ。イオンとモースの二人の反応を見てどういった選択をするのかを・・・ただ、そういった選択をすると決めたきっかけが誰かと言えばそれは・・・











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