漂流魔王、異物として深淵世界を変える 後編

「・・・よし、行ったか・・・多少強引ではあったが、これで良かったか?ノブナガよ」
「えぇ、それは。あそこで下手に道理やら様々な事を問答するようであれば時間がかかるばかりか、大詠師達は素直にこのバチカルから出るような流れは作れはしなかったでしょうからね」
「ならいいか・・・」
それでイオン達が謁見の間から出ていったのを見計らいインゴベルトは空気を緩め信長に確認を取り、にこやかな肯定が返ってきた事にホッとした様子を見せながらジェイド達に視線を向ける。
「それと済まぬな。このような芝居に付き合わせるような事をしてしまって」
「いえ、こちらもまたピオニー陛下より役目を預かり参上した身ですので気になさらないでください・・・それに事実を知った今となっては、私個人としてもダアトの事を信用など出来ませんしキムラスカと協力せねばならないと感じていますので」
「そう言ってもらえると助かるが・・・そしてガイラルディアにマリィベルよ。7年間よくやってくれた。マルクトに戻りたいという気持ちを抱きつつも、連絡役としてこちらにいてくれたことはな。だがもうそれもそろそろ終わり、そなたらがマルクトに戻る時は近いぞ」
「はい・・・少々気が早いかと思われますが、今後の展開を考えますと挨拶の為の時間を取るのは難しいと見ましたので先に言わせてください。今までお世話になりました・・・そしてマルクトに戻りましても、姉共々キムラスカと良き関係を結べるように今後とも尽力したいと思います」
「うむ」
インゴベルトはジェイドとガルディオス姉弟に役目についてご苦労といったよう、それでいてもう隠す必要はないといったように平然と話を進めガイとマリィが頭を下げる姿を当然と受け止める。



・・・そう、今の状況は最初から仕組まれていた物である。それもキムラスカとマルクトの両サイドに信長の考えがある形でだ。

元々はマルクトからガイ経由で持ちかけられたきっかけだった。マルクト領にあるアクゼリュスという街から障気が発生したから助けてほしいという要請があり、それを解決すると共にこの事態を利用すればかねてより話をしていたダアトに預言を頼りとする体制からの脱却が出来るのではないかと。

それを受け取ったインゴベルトに信長はすぐに了承の返事を返した。この機会を逃せば絶好の機会はないと考えた為に。

ただその中でティアがファブレの屋敷に侵入してルーク共々疑似超振動で飛ばされた事は流石に信長からしても想定外の出来事ではあったが、結果的にルークは無事であったしガイ達がジェイドと顔合わせをして合同で動けた事は予想外にいい結果だと信長は感じていた。

・・・と言っても、信長の中にはティアに対して感謝の気持ちなど更々ない。愚かと言って差し支えない行動に考えで自分達の考えに用意を一瞬にして無駄にした。それも当人は本来抱えなければならない罪の意識の大きさの何十・・・いや、何百分の一以下の小ささでしか持ってない形でだ。この事をバチカルに戻ってくる途中のガイからの報告の手紙で知らされた信長は、ハッキリとティアの事を馬鹿だと感じていた。本当の意味で人を敬うなどないし人には考えのつかないことをやる自分と違い、ティアは物事の意味の軽重など把握せず衝動のままに行動する馬鹿なのだと。



「・・・それと、ナタリア。今こうして初めて大勢の人の前に立っているわけだが、気分はどうだ?」
「・・・少々、緊張しています。ですが本来、預言に死が詠まれノブナガ殿が対策を取っていただかなければ私は今この場に立つことすら叶わなかった身・・・そう思えば、この程度はどうということはありません」
「そうか・・・徐々に慣れていけばいいから無理はするな。代わりを勤めてくれたメリルはもうそなたの代わりに動くことはないが、だからと言って急ぎ過ぎることはない。時間は沢山あるのだからな」
「はい、分かりました」
それでナタリアへと確認の声を向けると気丈ではあるが自信に満ちてはいない答えが返ってきた為、気遣う言葉をインゴベルトは向ける。これからがあるのだからと。












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