漂流魔王、異物として深淵世界を変える 後編

「・・・へ、陛下・・・ど、どういうことなのですか・・・!?」
「どういうことも何も、言葉通りだ・・・ダアトの者達は本来預言にはナタリアは死産であると詠まれ、その上で今時折出てもらっているナタリアを本物のナタリアとすげ替えようとしていた。それら全てを我々に内密にする形でな」
「なっ・・・!?」
「っ・・・!?」
その中でいち早くイオンが動揺覚めやらぬままながら言葉の意味を問うが、そのまま平坦でいて冷ややかに事実を話していくインゴベルトにまたイオンは絶句し、モースもまた唖然とした様子を浮かべる。
「だがその動きを察知したノブナガの機転により、ナタリアは死産となることもなく無事に産まれこうして生きることが出来ているわけだが・・・その存在を隠した理由が、貴様らダアトの目を欺き暗殺などの危険を避けるためだ。もしナタリアの生存がバレたなら預言との辻褄合わせの為、手段を選ばず行動しかねん可能性もあると見てな」
「そんなっ!?ダアトはそんなことしません!」
「ならば何故、ダアトの者達は我らに事実を言うようなことをしなかった?・・・百歩譲って死産と詠まれていてそうなったとしたなら、我らも諦めはついたであろうし話を聞き入れるような気持ちも浮かんだであろう。だが当時バチカルに来たダアトの者達は出産に立ち会った者達に事実の口止めを強要したばかりか、平然と同時期に産まれたナタリアと入れ替わると詠まれた子どもを親から奪う形で配置することにした・・・これが人のやることか導師、いやダアトよ!!」
「「っ!?」」
・・・インゴベルトの心底からの怒りが込められた怒声に潔白を信じるイオンに、黙って話を聞いていたモースはたまらず身を縮こまらせた。あまりにも二人との熱量の違いすぎるその様子に圧されて。
「貴様らダアトが何故事実を我々に言わなかったのかという理由については、後々にその事実を用いて我々に対する切り札とせんとするためと言うのは見当はついた!だからこそ我々はお前達ダアトを信頼などせぬと決めたのだ!預言の為なら何でもする・・・そう、キムラスカとマルクトの戦争さえもお膳立てをするお前達などな!!」
「「なっ・・・!?」」
そしてすかさずそのままぶちまけていくインゴベルトだが、その中で出てきた核心とも言える言葉・・・キムラスカとマルクトの戦争という言葉に、イオンとモースは同じような声を出しつつも厳密には違った反応を見せていた。前者は純粋に心当たりも何もなく驚愕し、後者は心当たりしかないからこそ冷や汗を盛大に流すという形で。
「・・・さて、こういう言い方こそしたが導師と大詠師。互いの認識がどれだけ違うかは今の話で分かった筈だ・・・すぐに共にこのバチカルから去れ。そうすればグランツ兄妹の身柄と引き換えという形で特別に見逃してやる」
「へ、陛下!?わ、私はそのような事など・・・」
「何度も言わんぞ、モース。異を唱えると言うならこの場で即刻捕らえ、言い訳など言わせる間もなく処刑しても構わんのだぞ。こちらは」
「っ!?」
「・・・モース、ここは共にバチカルを出ましょう・・・正直に言うと僕は貴方に対して聞きたいことが沢山ありますが、それ以上に今陛下に逆らうのは危険です・・・」
「っ・・・仕方、ありませんな・・・陛下、この場は退散させていただきますが後日誤解を解きにまた参上しに参ります・・・では、失礼します・・・っ!」
それで少し落ち着いたインゴベルトがバチカルから出るように取り付くシマもない様子で言い切り、モースは諦め悪く残ろうとするもののイオンの危機感を感じずにはいられないとする様子からの言葉に、ようやく頷き出ると頭を下げてイオンとアニスと共に謁見の間から退出する・・・だがその様子に本意というような様子はなく、むしろ不本意でしかないと姿で語っているのがありありと分かる姿であった。









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