漂流魔王、異物として深淵世界を変える 後編

「少なくとも大詠師の元に報告なりなんなりの手紙が来ていない事は事実ですよ。このバチカル城に滞在している以上手紙を出すにしても受け取るにしても、中身を検閲までは行かずとも誰宛なのかという物くらいは確認はしますからね」
「モース・・・貴方・・・!」
「少々お待ちを、導師・・・一体どうしたというのですか、ノブナガ殿・・・私をこのような形で責めるような事を言うなどと・・・!」
信長は念押しとばかりに手紙については間違いでないと強調し、イオンが責める目を強める中でモースは逆に言う必要などなかったとばかりに強く抗議してくる。
「事実責めているからこう申し上げているのです・・・預言保守派か改革派かなど関係無く、最早ダアトなど信用出来ない。そう示すような形でね」
「「なっ・・・!?」」
「お二人とも、意外というか考えてもいなかったといった様子ですね?残念ながらこちらは違うのですよ・・・ダアトを信用する理由などこちらには無いのですから」
「「っ・・・!」」
・・・至極真剣そうでいて、愉悦を抑えきれていない。そんな矛盾しているかにも思える信長の表情と声に、ダアトの二人はぐっと圧されたように冷や汗混じりに息を呑む。
「・・・な、何を持って我々を信頼出来ないなどとおっしゃるのでしょうか・・・確かに導師はティア=グランツの処分に難を示していたようですが、一連の流れを聞いて私はバチカルに戻った際は処分を下すことに異はないと申し上げましたのに・・・」
「なっ!?モース、貴方自分の部下をそのように簡単に処分を下すなど・・・!」
「導師、貴方はこのバチカルで陛下達より直々のお叱りの言葉を受けてないばかりかティア=グランツに情けをかけているからそのように言えるのです。ティア=グランツがいかに悪質でいて大それた事を行ったかに、それでいて今の話でどれだけ当人がその問題を軽視しているのか・・・むしろ今のノブナガ殿の話を聞いて何故導師がその事を感じないのか、そちらの方が私は不思議に思えてなりません」
「なっ・・・!?」
それでもモースは何とか言い訳を続けようとするがイオンがその中身に聞き捨てならないと批難気味に間に入ってきた為、逆にそれこそがおかしいと返された事に絶句する。
「・・・まぁ大詠師が下した処分に関しては妥当ではありますが、導師がこの調子であることに加えこちらには大詠師というか預言保守派自体に信じられぬ要素があるのですよ」
「よ、預言保守派に・・・?」
「えぇ・・・よろしいですか、陛下?」
「うむ・・・すまぬがナタリアを呼んできてくれ、時が来たとな」
「はっ!」
「・・・何故、ナタリア様を・・・?」
信長はその会話を引き継ぎつつ預言保守派に言及した上でインゴベルトに話を振り、ナタリアを呼ぶよう兵士に伝え退出する兵士の姿を見てモースは不安そうに声を漏らす。



・・・それで数分後、妙な空気感を感じ浮き足立つダアトの面々の前にナタリアを呼びに行った兵士が謁見の間に戻ってきた。
「っ・・・そちらの、女性は?今陛下が呼ばれたのはナタリア様の筈では・・・それに、そちらの女性の髪に瞳の色は・・・」
だが兵士と共に現れた女性の姿にモースはいぶかしむと共に、どこか冷や汗を浮かべたように声を向ける・・・その女性の着ている物は王族が着るものに相応しく造りのよいドレスであり、腰にまでかかる赤い髪に緑の瞳を持つその見た目は・・・キムラスカの王族が持つ身体的な特徴そのままであり、立ち居振舞いは正しく王族のものだったのだから。



「そこにいるのは紛れもなくナタリアだ・・・最も、お前達ダアトがナタリアの死を我々に隠匿しようとした為、今までその存在を隠してもらっていたがな」



「「「!?」」」
・・・そしてインゴベルトが冷徹さを滲ませる声で明らかにした事実に二人だけでなく、イオンの護衛をしていたアニスまでもが驚愕した。まさかの事実の暴露に。












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