心臓に打ち込まれた罪の楔

タルタロスを出たジェイド達はルークにつけられた兵士の代表者と何人かの兵士を後ろに伴い、宮殿の中へ足を踏み入れる。そして謁見の間に続く扉を開いたジェイド達は我が物顔のようにピオニーの前に歩いていく。



「ご無沙汰しています、陛下。導師イオン、ただいま戻りました」
まずはイオンが頭を下げる。続いて他の面々も頭を下げるかのように思われたが、頭を下げるのはキムラスカの軍服を着た兵士のみで、他の面々は頭を下げようというそぶりすらない。ジェイドに至っては頭を軽く下げ、すぐさま頭を上げるだけだ。
その態度に、ピオニーは若干目を細めるがあえて注意はしない。
「ああ、連絡は受けている。和平の書簡を持ってきてるそうだが、ジェイド。お前が持ってるのか?」
ひじ掛けに肘を乗せて頬杖をつきながら喋るピオニーの態度はいつも通り、だが目と声は幼なじみのジェイドにも気付かれない程緩やかに厳しい物になっていく。
「はい、こちらに」
書簡を取り出したジェイドにゼーゼマンが近付きジェイドから書簡を受け取ると、ゼーゼマンはピオニーへと書簡を手渡す。
「・・・確かに。ご苦労だったジェイド・・・と言いたいところだが、一つ聞きたい事がある」
「は・・・なんでしょうか?」



「手紙はどうした?ジェイド」



今までの柔らかい態度で接していたピオニーの視線が一転、声と共に皇帝としての威厳とプレッシャーを伴った物に変わる。いきなりの変貌に「それは・・・」と、豪放楽天家な彼の自分に向けられる初めての視線を見た事はないジェイドは動揺で口ごもる。
「え?なんで知ってるんですか?陛下ぁ」
だがそんな事に気付けず、首を傾げながらアニスは猫撫で声で手紙の存在を肯定する。
「あんな手紙、破いて捨ててしまいました。だって中を見たら白紙だったから「アニス!」」
陛下に見せる意味なんてないですよぉ、と続くはずだった声を意図的にジェイドは怒声で遮る。だが、その事実はすでに周りに知れ渡ってしまった。
「そうかそうか、破り捨てたのか。ジェイド、お前も破り捨てる事にしたのか?」
ジェイド、と呼ぶ声には一片の情けもない。
「・・・正直に申し上げるならば私は開くつもりはありませんでした。ですが、私はアニス達が手紙を開けるのを止める事が出来なかったので同罪だと思っています」
手紙の存在が知られさえ知られなければどうとでもなる、ジェイドはそう高を括っていた。
「・・・ふう、信じられねぇ。まさか和平の際に送られる手紙を見て、揚句の果てにはそれをいらないから破いて捨てるのが当然って言えるなんてな」
呆れを隠しもせずにピオニーは溜息を吐き、傍らにいたフリングス少将を見やる。
「おい、アスラン。丁重に迎えにあがれ。出番が来たとな」
「はっ、直ちに向かいます」
フリングスが来た道を戻っていく様子に、ジェイド達は顔を疑問形にする。
「ピオニー陛下、これは一体・・・?」
「これからある人物がここにアスランとともに来る。それまで待て」
ティアの訳がわからないと自分への説明を明らかにしろという高圧的な声に、ピオニーはあっさり待てというだけで切り捨てる。






そして数分後、フリングスとともに現れたのはキムラスカの軍服を着た女軍人であった。





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