漂流魔王、異物として深淵世界を変える 前編

「・・・今度のホドでの戦争、どうにかして避けられぬ物か・・・」
「規模が規模だ。2年前のナタリアの件と違い、戦争をおこさにゃダアトはまず納得はしねぇだろう。最悪マルクトの兵の格好をさせた奴らでも特攻させ、こっちに被害でも与えさせてマルクトの仕業だから開戦しろと平然と言ってきかねねぇぞ。それもこっちがそうすると首を振るまであの手この手を使ってくる形でだ」
「・・・ならどうすると言うのだ?いっそダアトに敵対するか?時期が早まるが、むしろわしはその方がいいとすら思うが・・・」
クリムゾンの緊迫した面持ちの声に信長は首を横に振りながらまず無理と言い切り、インゴベルトはむしろダアトとの戦争に踏み切りたいと言わんばかりの声を漏らす。
「今の時点じゃやらねぇ方がいい。ハッキリ言ってしまえばダアトを攻める大義名分がねぇ上、マルクト側との衝突の事も考えなきゃならねぇ・・・下手すりゃマルクトとダアトを同時に相手取るばかりか、マルクトの方にダアトが寄ってしまう可能性が出てくる。そうなりゃ戦いをどうやって制御するかが難しくなって、余計な被害が出ちまう上にダアトがこっちの手の上から警戒して離れていっちまう。そうなりゃ余程うまい理由でもなけりゃ民衆の反感を買ってしまうのはキムラスカ側だけになる上、ダアトの行動が読みにくくなる。そんなことはやるべきじゃねぇ」
「むぅ・・・いっそナタリアの事を白日の元に晒せたなら話は違うのだろうが・・・」
「今はダアトの奴らに警戒をさせねぇためにも、ナタリア達の事実は明かせないってのはお前も分かってるだろ。むしろ今明かせばこっちの状況がより悪くなるとしか思えねぇ・・・主にナタリア達の身の安全って方面でな」
「っ・・・そう考えると、下手に動けぬというわけか・・・口惜しい物だな・・・」
だがキッパリと信長はそれはするべきではないと言い切り、インゴベルトはそう聞いて苛立たしげな顔を浮かべる。ダアトに対してまだ表立って行動出来ないという事実に。
「だが逆に、今の状況に関しての打開策についちゃ一つ考え付いた事はある」
「何っ・・・それは真か、ノブナガ・・・!?」
「あぁ・・・そもそも戦争のきっかけとして目されている事は、ユージェニー=セシルがこちらの言うことに従わないことだ。今の状況でユージェニーが何も言わずこちらの言うことに従わねぇなら戦争もやむ無しって状態になるわけだが・・・元はと言えばユージェニーがマルクトにほだされたってのもあるだろうが、もう一度ユージェニーをこちらに引き込めることが出来りゃ少なからずこっちに有利な状況に持ち込めるだろう」
「ユージェニーをだと・・・出来るというのか、そんなことが・・・?」
ただ信長は打開策を考えてない訳ではないとユージェニーという人物の名前を出し、二人は訝しむ。スパイの任務を与えてマルクトに嫁として出したのにその役目を拒否し、キムラスカに対して翻意を示した人物の名に。
「まぁ女が身分も立場も・・・そして命までも捨てる覚悟で事に挑もうなんて状況ってのは言い方は色々あるだろうが、大抵意地になってるってのが相場だ。大方子どもが生まれて情が芽生えたか、キムラスカからホドに住んで周りの人員だとか環境に愛着がわいたか・・・そんな所だろう」
「・・・そんな存在を、再びキムラスカに引き込めるというのか?」
「正確に言うならユージェニーだけじゃなく、ガルディオスの連中・・・欲を言うならマルクトの首脳にも渡りをつけたいところだ。まぁ首脳は言い過ぎにしても、ガルディオスを引き込めりゃ上出来よ」
「だが・・・出来るのか、そんなことが?マルクトの重鎮であるガルディオスをこちらに引き込むなどと言うことが・・・」
続けてユージェニーどころかガルディオスまでもを引き込むと言い出した自信を覗かせる表情の信長に、インゴベルトにクリムゾンは更に訝しいと言った様子を深める。話を聞く限りでは説得は難しいのではという気持ちを抑えられず。










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