漂流魔王、異物として深淵世界を変える 前編

「理由としちゃ腕利きの傭兵って所も大きいが・・・今ナタリアの事実を知ってるのは俺らに産婦達くらいだろうが、これからの事を考えりゃ事実を知る奴らを最低限の人数は揃えなきゃならねぇが信頼出来る・・・もっと言うなら裏切る可能性が少ない奴じゃなけりゃならねぇ。何せ国の王女の生存を隠匿しなきゃならないんだからな。その点で夫って立場の人間なら余程薄情か冷徹な奴でもなけりゃ妻に子どもを見捨てる事はねぇだろうし、傭兵なら戦う為の力としても大いに頼りになる・・・って訳だ」
「成程・・・信頼出来る人物を増やすと共に、戦力を増すというわけか」
「使えるもんは何でも使わにゃならねぇ。それに侍女が何も言わないままでいて偽りの死を本当の死とでも思われたら、後々どんな禍根になるかも分からねぇからな・・・そうなるくらいなら最低でも事実を伝えるくらいするべきだろ。そうすりゃこっちに余計な敵意を向けられずに済む」
「・・・確かにな。分かった、侍女の夫がバチカルに来たなら事情を説明した上で協力してくれるかどうか話し合うことにしよう」
信長は夫を引き入れる事についてのメリットとデメリットについてを話し、クリムゾンもその内容を聞いてそうすると決める。夫を味方にするか、最低限敵にはしないようにと。
「・・・おい、インゴベルト。さっきから何を黙ってる?クリムゾンとばっかりしか喋ってねぇぞ俺」
「・・・いや、決意を固めていたのだ。このようなことを平然と仕掛けてくるダアト・・・過去はどうかは知ってはいるが、最早奴らをわしは信用しないという決意をな」
「・・・そうか、とうとう決めたか」
「あぁ・・・今までは先代方のやり方に倣っていたが、事ここに至っては最早我慢など出来る筈がない・・・お前が昔から散々話してきたダアト、いや預言との縁切りにわしは踏み切る事にする!」
そこでふと発言のないインゴベルトに視線を向け声をかける信長だったが、強い意志を込めた瞳でダアトとの決別の決意を決めたと宣言した様子に嬉しそうに口元を笑ませて歪める。
「・・・クリムゾン、そなたもわしに従ってくれるか?」
「勿論です、陛下。このような形で我々を騙そうとしてきた以上、ダアトの者達は我らに味方するべき物として見てないのでしょう。精々が使えるコマか、もしくは後に我らを抑制して自分達が世界を牛耳るための踏み台といったくらいにしか思ってないでしょう。ナタリア様の入れ換えの事を知らなかったとしてもし奴らがそれを利用してきたとなったら、我々の評判は一気に地に落ちることになります。偽者を偽者と知らず王女として担ぎ上げて来たのか、とダアトが仕掛けたことにも関わらずです・・・そのような事態が待ち構えている可能性が高いのに、奴らを信じることなど出来ません・・・!」
「・・・そうか・・・そなたの決意がわしと同じだということ、わしは嬉しく思う」
その流れのままにクリムゾンへと意の確認を取るインゴベルトに、こちらもまた揺るぎない決意を滲ませる強さを秘めた同意の返答を返し、その答えに嬉しそうに頷く。
「・・・となりゃ、早速お前の嫁にナタリアに侍女の身の安全の確保を最優先に動く方がいいだろう。産婦を始めとした面子も裏切らないように抱き込む形にして、バチカルの中でも人目につきにくい場所かどこかいっそ遠くに隠れてもらうかを決めるためによ」
「待てノブナガ・・・妻にも隠れてもらうべきだと言うのか?」
「俺は女じゃねぇからどうかなんざハッキリ分からねぇが、子どもが死産で産まれてくるような状態だってんなら女自身も何らかの不調を抱えてるって事も十分に有り得る。だがこの数日で体力回復だとか手を尽くした事で子どもも無事に産まれ、今のところは落ち着いた状態なんだろう?・・・もし本来預言に子どもと同時に嫁さんの死も詠まれてたか、もしくは近い内に死ぬとでもなっていたらあぶねぇのはお前の嫁もになる」
「っ!・・・分かった。妻にも侍女やナタリア同様、安全の為に身を隠すようにするよう話をしよう・・・どちらにせよナタリアの身を隠す以上は妻もその面倒を見るため、人前に出るのを控えてもらわねばならなかっただろうからな・・・」
だが信長から王妃の安全の為に務めるようにとする案とその根拠を語られ、すぐにインゴベルトは喜色を引っ込め真剣に頷く。妻すら殺される可能性が有り得ると、そう聞いてしまい。










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