悪魔の手による演劇変更

「・・・あの、レプリカがいたから・・・俺は・・・!」
・・・照明も点けない暗い部屋に一人、ベッドに腰をかけながら頭を両手で抱え負の感情を抱く赤毛の子どもがいる。



・・・赤毛の子どもの名は本当の名は『ルーク』だが、今は『アッシュ』となっている。そしてこの子どもは嫌だという気持ちを抱きながらも、その名を否定することが出来なかった。何故なら子どもは本当の名に居場所を取られたと考えているからだ。

本当は自分の敬愛している師により自分のいた場所から誘拐され、その代わりを置いたのもまた師なのだが・・・今のアッシュにはその事は関係無いと、ただ自分の代わりに置かれたルークを恨むという気持ちだけが先行していた。



「よう、坊主。そんな苛立ちを浮かべてどうしたんだい?」
「っ!?」
・・・そんなアッシュ以外いない部屋に、別の人物の声が響きアッシュはたまらず驚きベッドから立ち上がり声のした方に視線を向ける。そこにはシルクハットを被り、蝶ネクタイを着け、スーツを着た黒髪の男が貼り付けたような笑顔を浮かべて立っていた。
「こんばんは、お坊っちゃん。そんなにイライラして、どうしたのかな?」
「貴様、何者だ!?どうしてここに・・・誰か!誰かいないのか!?」
「おっと、人を呼ぶなんて無粋な真似は止しなお坊っちゃん。それよっか少しお話しないかい?そう・・・例えば、お坊っちゃんの言ってたレプリカについてさ」
「レプリカ、だと・・・!」
男はそのままの様子で話し掛けアッシュは大きな声を上げ人を呼ぶが、ニヤリとギザギザな歯を見せるように口元を歪めてレプリカと口にされた事にすぐにそちらの方へと怒りの方向を変える。
「何でお坊っちゃんはそのレプリカに怒りを覚えているのかな?」
「何故だと!?あのレプリカは俺の居場所を取ったからだ!!俺がこのダアトでどんな目に合い、バチカルに死に物狂いで戻ったのかも知らず・・・あのレプリカは、俺がいなくなったあの場所を・・・!」
「へぇ~・・・でもそれって全部、あの謡将様が仕掛けた事なんだろう?そしてダアトで辛い生活を強いられたのもあの謡将様がやったことじゃないのか?」
「それはっ・・・あれは俺を守るために仕方のないことで、あのレプリカがいるから俺は・・・!」
「じゃあさ・・・バチカルに来て絶望してたお坊っちゃんの元に、計ったようなタイミングで現れたのはあれは何だったのかな?・・・偶然あそこに来たにしてはタイミングもだけど、場所もやけに作為的だったようにしか思えないけど?」
「っ、き、貴様・・・何が言いたい・・・!?」
「簡単な事さ・・・本来あの位置に行くよりファブレの屋敷の前辺りを張ってるのが必死にお坊っちゃんを追ってきたはずの謡将様としては妥当でお坊っちゃんを見つけやすい行動な筈なのに、何であんなお坊っちゃんの居場所を始めから分かってますって感じにタイミングよく来たのかって思わなかった?・・・まるで、お坊っちゃんがあの場にいるレプリカの姿を見て絶望するのを待っていたかのようにさ」
「っ!?」
それで尚軽い口調で問いを向ける男に怒りを隠せずアッシュは自身の考えを返していくのだが、途端に冷たく細められた目と愉快げに歪んだ口元から発せられた言葉に息を呑んだ・・・その言葉が指し示すのは、ヴァンは始めからアッシュの行動を察知していたばかりか監察までされていた可能性すらあると言うことなのだから。
‘トーン’
「後は自分で考えるこった・・・今お坊っちゃんの心に落とした闇一滴は、大好きなお師匠様が全部偽物のせいにして押し付けようとした邪悪を侵食して混ざりあう。その結果どうなるか・・・舞台袖から見させてもらうぜ?これからの脚本の為にな」
「あ・・・・・・俺は、今何をしていたんだ・・・?」
そして男はいつの間にかアッシュの頭を人差し指で軽く叩き、意味深な言葉を放ちスッと消えてその場から消えていくとアッシュは今までの会話の事など一切記憶にないというよう首を傾げる。いや、事実記憶にないのだ・・・そして今の会話を思い出すこともなく歩む事になる。本来歩むはずだった道を別の方へと歩まされる事など意識せぬまま・・・










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