揺らがぬ愛と思うは一人ばかり

「いつか俺達が大人になったら、この国を変えよう。貴族以外の人間も、貧しい思いをしないように。戦争が起こらないように」



・・・小さい頃に交わした、婚約者との約束。幼いながらに本気の言葉であったことはよく分かっているし、現実を知るにはまだ子ども過ぎていた事は約束を交わした女性は今となっては理解している。だが・・・そういったことを差し引いたとしても、女性は婚約者の事を快くは思えなかった・・・





















・・・幼き日の約束は、傍目から見れば美しき物に見えたことだろう。その約束から7年以上の月日が経ち、二人は再び見える事となった。だがその再会はけして感動と言えるような物ではなく、むしろ逆の物であった・・・



「・・・久しぶりですわね、アッシュ。いえ、今は『被験者ルーク』とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「ナ、ナタリア・・・」
・・・バチカル城の牢屋の中。牢屋の前に立つナタリアの冷ややかな目を前にし、手枷をつけられたアッシュは呆然といったようになりしながらもベッドから立ち上がり格子の前に近付く。
「・・・気分はいかがですか?」
「・・・ナタリア、お前は知ったのか・・・俺が本当の『ルーク』であることを・・・」
「・・・質問の答えにはなっていないですが、まぁいいでしょう。えぇ、確かに知りました。ウォルターから全て聞く形で」
「ウォルター・・・!」
静かに問いを向けるナタリアに、どこか諦めたような感じで違うことを口にするアッシュ。それでも律儀にナタリアは答えを返すが、出てきたウォルターの名に瞬時に苛立ちに表情を歪める。
「・・・貴方がウォルターに対して怒りを向けているのはバチカルに無理矢理連れて帰らされたからですか?成す術もなく倒されたことについてですか?それとも、キムラスカが憎くて仕方無いからですか?」
「っ!い、いや・・・俺はキムラスカを憎いとは思っていない、ただ俺の考えを全く無視してこんな形で連れて戻ったことが気に食わないだけだ・・・」
そんなウォルターという人物に対する怒りの理由を静かに問うと、慌ててアッシュは弁明に口を開く・・・この場にこそいないがウォルターはキムラスカ王室に長く仕える執事で、ナタリア付きのアッシュのよく知っていた信任厚い人物である。そんな人物を良くない感情で見ているとナタリアには思われたくない・・・そういったアッシュのナタリアに対する想いがあった。
「・・・キムラスカが憎くないとそうおっしゃるのに、キムラスカに戻らなかったのは預言の事があったからですか?炭坑の街と聖なる焔の光が共に消滅したならキムラスカに繁栄が訪れる・・・そうお父様を始めとした方々に死ぬ事を望まれる立場にあるとヴァンに聞かされたから帰ることを選ばなかった・・・と」
「そっ、それは違う!・・・俺がキムラスカに戻らなかったのはあの、劣化レプリカがファブレに入り込む事に成功したと知ったからだ・・・」
「・・・劣化レプリカ、あのルークの事ですか・・・」
「そうだナタリア!」
そんな想いを汲み取ったようでもなく話を進めるナタリアにアッシュは弁解の声を上げ、ルークの存在に表情を難しくする様子に嬉しそうに表情を変える。
「・・・何故ルークの認識を私がしたというだけで、免罪符を得たように嬉しそうに表情を変えたのですか?」
「・・・え?」
だがその瞬間、ナタリアの表情が一気に冷めきった物となり冷えた視線と問いを向けられアッシュは戸惑いに表情を変えて止まってしまった。







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