自業自得を加速させ、愛を奪う

何故そうなのかというと詳しい経緯を話すと長くなるので色々と省かせてもらうが、結論を言うならルークが本物の『ルーク』という存在でないことを知ったからだ。

元々の本物の『ルーク』出会った存在は今はアッシュと名乗っているが、アッシュがヴァンという人物に本当は拐われフォミクリー技術を用いてアッシュと瓜二つの人間・・・即ちルークを産み出し、アッシュの身代わりとしてファブレに置いた。そしてルークを造り出した当人であるヴァンはアッシュを人には知られぬよう手元に置き、自分の手駒としている・・・そうしいなは知ったのだ。

初めはその事実を知った時にはしいなも驚愕せざるを得なかった。まさかそんなことが起こっていたとは思わなかった為に。しかし思考を深めていく内にしいなはこれをチャンスと思うようになった・・・なら何がチャンスなのかと言えば、自分の元にルークを引っ張りこむチャンスである。



・・・しいなとしてはルークを助けて共にあろうとすることは既に規定路線ではあったが、そこでキムラスカの次期王という立場に表向きはあるルークを生き残らせようとしたなら何もせずにいればまずルークはキムラスカに戻ることもそうだが、立場的に婚約者であるナタリアがそのままルークの伴侶として結婚する状況になるのはほぼ確定していると言えた。

そんな中でしいな一人でキムラスカに立ち向かうような無謀な愚行を行う気は流石になかった。まずそんな状況でルークの結婚相手という立場を奪うことなど到底出来るはずもないと考えた為に。
だがそこで本物の『ルーク』であるアッシュをその位置に戻すことが出来たならどうなるか?・・・しいなはそう考えた。



・・・色々と調べていく内にアッシュはヴァンに拐われた現状に関してを納得と不満といった複雑な感情が入り乱れたような状態であることを、しいなは変装なり侵入なりしてアッシュの様子を確認していったことから確信した。そしてナタリアに対する想いが単なる婚約者だった相手に向けるような物ではなく、遠い想い人を想うような事を口走っている場面も度々目撃した。

また、それと同時にルークの婚約者であるナタリアも本当の『ルーク』との約束についてをルークに会う度に思い出すように聞いてきた。肝心のルーク当人との今の関係をあまり重要視してないと言わんばかりの態度を持って。

しいなとしてはナタリアのルークに対する態度は気には入らなかったが、アッシュと未だ両想いといった状況に関しては使えると感じた。立場の関係無い愛を持つからこそ、それを利用すれば二人を元の鞘に戻すことは十分に可能と考えた為に。

・・・尚余談としてはアッシュを調べていくに辺り寝室にもしいなは忍び込んだのだが、その時の寝顔を見てもルークに感じたような衝撃は一切起こることはなかった。色々調べていく内にその性格に言動を見知ったことや寝顔がやたらと忌々しげに歪んでいた事や、そして何よりアッシュにではなくルーク個人に恋したからこその結果であった。偽物か本物かなど関係無く、一個人として見たからこその。



・・・話を戻すと、二人が元に戻りさえすればルークを自分の元に引き入れることは出来る。そう思ったしいなは色々と事を進めていった。ルークがキムラスカにファブレを出てから自分と共にいる居場所の選定、活動資金を含めた必要経費の捻出、そして事を進めるに当たって自らがどんな立場で行動するのか・・・そう言ったことについてを様々に。

その中で必要経費に立場については二年前に知った導師イオンに導師守護役のアニスに大詠師モースの件から、モースの命令でアニスの両親に借金をさせていた業者を完全に屈服させて資金を捻出させた。その上でアニスとイオンにはその事実を伝えた上で、影でこれからサポートしていくと伝えた。モースのいいようにさせないようにするために、自分が影から動いていくと言って。

無論、それは善意だけから来る発言ではない。いざという時に導師を味方につけておけば自分の事を売り込める上、立場を強調する為だ。自分は世界の為に動いていた、悪意などないと周りに示すために。



・・・そうやってイオン達に恩を売り、密かに行動をしていったしいな。時折他の場所に様子を見に行きはしたが、基本的にダアトに潜み行動をしてきた。

それでイオン達がダアトから出てマルクトに向かわねばならない状況になった時に時期が来たと感じたしいなは密かにそちらに付いていったのだが、その中で偶然にも出会ってしまったのである・・・キムラスカのバチカルでほぼ軟禁状態の筈のルークと、そんな状態のルークと接点などあるはずの無いティアの二人に。









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