自業自得を加速させ、愛を奪う

元々の性格として人懐こく明るいしいなだが、一族の悲願とも言える自分の使命を果たすことに関しては迷いはない。事実を知ったこともあるが、預言通りになったのならそんなこと自分には関係無いと無視をした場合、滅びの影響を受けて死ぬ未来が待ち受けているとなるために。

自殺願望も破滅願望もないしいなからしてみればそんな展開など望む物ではない為に自分が動かねばならぬ事は重々承知しているのだが、無事に事を果たした後の自分の姿が思い描けない事・・・それがしいなにとって悩みの種になった。

しいなとて女性という立場にいることもあるし、元々の性格としても自分の幸せというものを夢見るくらいは当然ある。ましてや滅びの未来を避ける事が出来たのなら一族の悲願を達成出来たと同時に使命から開放されることと同義なのだが、その壁が高いが故に乗り越えた先の事を考えられなかったのだ・・・まぁこれは当然と言えば当然であった。しいなの血族が考えていたのは世界を変えるという前代未聞の難関で、しいなという事に挑む当事者のその後についてなど考えていた物などなかったのだから。

・・・だがしいなはふとその事に思い至り、そして考えてしまったのだ。自分が目的を果たしたならそれからどうなるかということもだが、どうしたいのかを。そしてその事についてを考えていくのだが、そこから解放されたら自分は自由であり何をしてもいいという喜びがあるのはしいなも考えた。だが平たく言うなら目的を果たした後の目的という名の楽しみが、どうしても見当たらない・・・その事があってしいなは人生を心から楽しめていなかったのだ、ある瞬間が来るまでは・・・だがその瞬間は来たのだ。しいながルークを見つけた事で。









・・・元々、しいなの血族が預言を覆す為の一番の手段として考えてきたのは戦争のきっかけとなる『聖なる焔の光』という意味の名を持つルークを殺すことだった。これに関してはこうするのが確かな手段として、一番手っ取り早いし確実としいな自身も思っていた。

だからこそ先祖代々から受け継いできた意識集合体の降臨術に加えて、ホドに伝わる忍の技術を叩き込まれたしいなはこれなら失敗はないと自身の技量に確信を持ち、今から三年前にファブレ邸に誰にも気付かれることなく忍び込みルークの枕元に立ったのだが・・・そこでしいなは何も知らず寝ているルークの姿を見た瞬間、電撃を受けたような衝撃を感じて顔を赤らめた。そして殺すと決意した気持ちが一気に崩れてしまったと感じた事から辛うじて残った自制心を持って、その場から退散した。

それで一人バチカルの外に出たしいなは落ち着きを取り戻した頃には自分がルークに対して一目惚れをしたと同時に、自分のこれからの生きる目的はルークと共にあることとも確信したのだ。最善の手段はルークを殺すことと、そんなことはもう選択肢から除外するばかりかそうしろと言うなら・・・そう言った相手を遠慮なく殺しても構わないと思うほどに。

だがそこで今まで考えてきた預言通りになった時の事がしいなの頭の中に浮かび、改めてどうするべきかと考えた。もしそのままいけばルークは死ぬことになり、戦争が始まる事になると。

・・・この時、しいなの頭の中でルークを誘拐してしまえばいいという悪魔の囁きがなかったわけでも実際に行動に移してしまおうという考えがなかったわけではない。だがルークが以前にも一度拐われていたことを考えると捜索の手が自分の元に来ることも考えられる上に、ルークに嫌われてまでそんなことをしたいわけではない・・・そう考えたしいなは改めて別の手段を取るべく色々考えて動く事にしたのだが、結果的にそうして正解だったと今となってはしいなは考えていた。










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