二人の王女の在り方と周りの評判

劣等感と言った理由に関しては先に言ったように一歩踏み切れなかった事の補足のような中身になるのだが、言ってみれば何て事はなく・・・ガイがミレーユに対してあらゆる意味で勝ち目がないと感じているだけなのである。

女性に対して主導権を握れないこと・・・それはガイは言葉にしこそしないが心のどこかで男性として女性に負けていることと同義であると、心のどこかで考えている事である。故に主導権を握れず掴み所のないミレーユより、感情を剥き出しにしても単純で分かりやすいナタリアをガイは接しやすく感じるのだ。

・・・ただそういった風に考えているからこそ、ガイは何も考えていなかった。ルークとミレーユがティアによりマルクトに飛ばされた事は単に飛ばされただけ、それだけの事と捉えて本来はどれだけ重大な出来事なのかということを・・・









(・・・綺麗な格好をしてるわね、ナタリア様・・・とても似合ってて素敵な人だし・・・いいなぁ・・・)
・・・ガイがナタリアに詰め寄られている状況。その大元の原因を作った筈の当人であるティアは、ナタリアの格好を見て可愛い物への憧れに心をやっていた。









・・・基本的にティアは人を敬うということに慣れていない。正確に言うなら人を敬うという事は自分が好きか嫌いかを決めた上で、立場が遠いか近いかで嫌味なく敬意を払った言葉遣いをする事が正しいものだと思っている。

その点でティアはある意味平等に人を見てはいる。自分の視点を崩さない為に・・・ただそれは崩さない、崩そうとしないが故の物なのだ。そこに私心はあれども、公的な物の見方は存在しない。あくまで自分の中の判断が基準の全てなのである。

そういった視点だからこそミレーユに対してイマイチ苦手意識を拭うことが出来ずに旅の間も進んで声をかけることもしなかったのだが、ナタリアが王女としてきらびやかな姿でいることはティアからすれば一つの憧れであった。兵士としてでなく女性として纏える物の最高の衣服を女性としての立場から羨ましいと思える形でまとっていた為に。

・・・尚ここでミレーユの格好についてだが、比較的前世に近いように落ち着いた服装をしている。流石に背中についていたわっかのような飾りや防御の為の胸当てなどは着けていないが、だからこそ王女らしくない質素な姿として見られていた。ただその服装があったからこそ貴族達からの評価もまた慎ましく好ましい物と見られることとなったのだが、そういった慎ましやかな服装からティアはミレーユの事を王女として羨ましいとも様付けで呼ぼうとも思わなかったのだ。

なのでそう言った点から見ると単純にティアはナタリアの事を綺麗で羨ましいと思っただけなのだ。その本質を見ることもなくただ上っ面を見るだけで苦手意識を持ったミレーユよりも憧れを持つという形で・・・要はティアにとって人を敬う基準などその程度の浅はかな物なのである。見た目と態度が第一に来る程度で。









「あはは・・・」
・・・そんな光景を目の当たりにして、イオンは微笑ましそうな顔を浮かべる。









・・・イオンはダアトの導師としてこの旅でミレーユと行動を共にして、単純に優しくて強い女性だと感じていた。だがそれは今目の前のナタリアに対しても感じている事だ。それも同格と思うくらいに。

これはイオンがとある事情により人生経験が少ないからになるのだが、それが故に余程あからさまでなければ表向きの態度に疑問を持たないと言うか持てないのだ。そして加えて言うなら、政治的な視点において物を見るという能力も満足に備わっていない。

その点でイオンは先の旅で非常に優しく気遣ってくれた事から単純にいい人というのがミレーユの印象なのだが、ミレーユから言われたくないことを言わないようにしていたといった気を使われていたという風に感じた事もなかった。その態度はいつも通りの物で自然に出てくる人柄だと信じて疑わぬ形でだ。

・・・そんな風に感じるイオンからしてみれば、ガイとナタリアの立場など関係ない心が通じあっているようなじゃれあいは人柄がいいから出来ることなのだというように感じるのだ。何かを考えた上で細やかな気遣いをするミレーユと、基本的に自分の言いたいことを言うありのままのナタリア・・・この二人にある決定的な差など考えることもなく。










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