変動は静かに広まっている

・・・それから数日後、ダアトから大詠師であるモースがバチカルへと来た。



「・・・そ、そのようなことになっていたとは・・・」
「一先ずエンゲーブでミレーユから送られた手紙により、二人・・・ついでにティアとやらの無事は確認出来た。だが一つ間違えば戦争になり得た事態だったということは理解出来たか?」
「え、えぇ・・・それは、まぁ・・・」
インゴベルトの私室にて事の次第を聞かされたモースは、浮かべていた冷や汗を袖で拭う。
「それならいいが・・・ルークは預言の事があるからやむ無しとは言え、ミレーユは数少ない王族の一人なのだ。加えてミレーユ自身の器量もあって人心も付いてきている・・・そんな存在がいなくなればいかにダアトと言えど、危ない所だったのだぞ」
「はい・・・(くっ・・・余計な事をしてくれおって、ティアめ・・・それにミレーユ王女も厄介な物だ・・・王族が少ないからと家系図を紐解いて引っ張ってきた王女がこのような効果をもたらすとは・・・やはり預言に詠まれた王女なのかどうかを確認した方がよかったのかもしれぬな。ダアトに不都合をもたらすような存在が預言に詠まれているとは思えん・・・まぁもう後の祭だがな・・・)」
身に染みて危険を感じている様子にインゴベルトはミレーユの存在は希少だと告げる中、モースは頷きつつも内心で預言を詠まなかった事を吐き捨てるような口調で後悔していた。



・・・そもそも、ダアトというかモースからしてミレーユが王女になったのは誤算・・・というより青天の霹靂であった。何故ならキムラスカがダアトを通さずにミレーユを義理の娘として迎え入れると宣言したからだ。

それを聞いた時にモースは何故そのようなことをしたのかと聞いたが、ルークを預言により失わなければならない以上王族の数をどうにかして増やさねば王室の存続が出来なくなるからだと返され、仕方無しに引くという選択をするしかなかった。いかにダアトとは言えキムラスカを存続させる為のシステムにまで口出しをしては逆効果であったり、国交に傷をつけかねないために。

故にモースを始めとした一派はミレーユについてを言及することを止めたのだが、下手に言及するのを避けた事がミレーユの預言を詠む機会を失わせた。

・・・ミレーユ自身は預言という物を否定する気はないが、かといって預言に頼る気もなかった。何故かと言えばかつての旅では勝ち目の見えないかもしれない強敵達との戦いに身を投じてきたのだ。勝てるか勝てないかの打算で物を見ることなく・・・そういった経験が未来を預言という形で狭めるような事を拒否させたのだ。現に夢占いも自分が楽になるための選択には使わなかったし、師であるグランマーズもかつての旅ではヒントは告げはしても明確な答えはくれなかった・・・ミレーユは未来は自分で切り開くものだと今までの経験からそう考えている。だから預言を必要とはせず、預言を詠まれる事をやんわりと拒否してきたのだ。オールドラントに産まれてきてから言葉を発することが出来るようになってからは。

そんなミレーユが決めたこともあり、ミレーユに対して預言が詠まれる機会は設けられる事はなかった。それにキムラスカがもう王女として祭り上げられることを決定させたことも後押しをしたのもあって、余計に預言を詠む機会を失わせたのだ。それで無理に預言を詠んで王女になるべきではないと出たなら、ややこしいことになりかねないために。



・・・尚これは余談だが、モースからしてミレーユは特別嫌いでも好きでもない存在である。何故ならモースにとって重要なのはダアトに預言であって、人に対しての興味などないからだ。それでもあえて言うなら見た目で言うと好みではあるのだが、根本的な考え方では反りが合わないとモースは考えたことがないながらも感じていた。預言のみを正義とする考えとは相容れる筈がないと。

更に余談ではあるが、ヴァンからしてのミレーユは意外と好評価である。何故かと言えば預言を詠んでもらおうとしない行動の在り方に、単に性格のいい人間にはない厳しさがどこか滲み出ている事にだ。とは言ってもあくまで個人的に好印象なだけであって、自身の計画の最中で絶対に犠牲にしないよう動くほどの思い入れは別にないのだ。会ったら多少会話する程度の相手に。








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