変動は静かに広まっている

「・・・とりあえず話題を変えよう。今ナタリアはどうしている?」
「ここに来る前はシュザンヌの体調を気遣い、側にいましたが・・・この件にはあまりナタリア様を関わらせたくはありません。今回の件がどれだけの問題なのか、それを正確に把握していない節が見えました・・・何より戦争になる可能性についてを誰かから聞いた時、過大解釈などして話を妙な方向に持っていきかねません」
「うむ・・・ナタリアの性格を考えると早とちりをしてしまいかねんからな。もう戦争は確定した物だと思い込んで・・・」
そこから話題転換にナタリアの事を切り出すインゴベルトだが、公爵からの返答にまた表情を悩ませる。



・・・ナタリアは性質だけで言うなら善人ではある。人が困っているなら見過ごせないし、人の為になることをしたいと思う程に。だがそれらを補って余りあるほど、思い込みが激しいのである。自分の考え=人の為になると、そう繋げてしまうくらいに。

そんなナタリアは基本的に戦争に対しては積極的な考えではないが、だからと言って絶対的な平和主義という訳でもない・・・誰かと衝突すれば余程でなければ自分から折れるようなことはしないし、人の命を奪うことに関しても必要があれば躊躇うことはしないくらいには割り切っている・・・そういった性質から考えてみると、相手が許せない敵と判断したなら戦争を起こすことも辞さないだけの気の強さがあるのだ。

そんなナタリアにルークにミレーユの事をありのまま伝えたならどうなるか?・・・すぐに戦争だとは言わずとも、一気にダアトに対して敵と見るような目を向ける可能性が出てくる。ただこれはあくまで一例であるにしても、ナタリアが妙な正義感を持って行動したならまた何か別の問題が起きかねないのだ。その考えが国交に傷をつけるような問題を・・・それほどにナタリアは突飛な行動を取る可能性がある。

インゴベルトに公爵からしてみればそんなナタリアのフライングなどという理由でダアトとの戦争など、目も当てられないどころの騒ぎではない・・・故に二人はミレーユ達の事に関わらせたくはないのだ。



「・・・とりあえずナタリアにはあまり貴族達の目が届かないような状況で公務を行ってもらうとしよう。幸いと言っていいかは分からんが、ミレーユがいなくなった分の公務を割り振ると言えば仕方ないと大人しく公務に取り掛かるだろう。クリムゾン、屋敷に戻ったならナタリアにミレーユの穴を埋めるように動くよう告げてくれ」
「はっ、お伝えします」
「うむ・・・(・・・ナタリア・・・)」
それで考えをまとめてインゴベルトは指示を出すが、頭を下げる公爵の姿を見ながら内心でナタリアに対しての苦い想いを呟く。



・・・インゴベルトからしてナタリアもミレーユも可愛い娘なのには変わりはない。だが実の娘であるナタリアに対して思い入れに愛情があることは否定出来なかった。ミレーユと比べる程尚更にその気持ちが深くなる形でだ。

では何故比べる程に深くなるのかと言えば、有り体に言うと少し違うが・・・馬鹿な子ほど可愛い、というものに近い。もう少し補足するなら、付け加えて馬鹿だからこそ成長するのではという期待もあった。

インゴベルト自身そのような感じかたはどうかと思ってはいる・・・だがミレーユと比べるとナタリアの評価が落ちることに、性格や能力が未熟な事はどうしようもない事実だった。だからこそ義理の娘で評判が高いミレーユには浮かばない感情がナタリアに向けられる・・・のだが、ナタリアに成長を求めても著しい結果になっていないのが実状なのだ。親の贔屓目を入れて考えてもそれが明らかなだけに、インゴベルトは尚心苦しかった。

・・・現に今もナタリアを信じることが出来ず、安全策を取る以外になかった。その事に苦い想いを抱いていたのだ。











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