変動は静かに広まっている

(そもそもを言えばここにミレーユ王女が来たこと自体が予想外でもあったのだが・・・いや、それは置いておこう。今は三人の行方を知り、一刻も早く保護せねばならん・・・アクゼリュスまでいけば後はどうなろうとも構わんが、それまでは予想外の事が起きてもらっては困るのだ・・・そしてもし保護が完了したなら、ティアをどうにかせねばなるまい・・・モースの処分から守るという意味合いもあるが、それ以上にまたこのようなことを起こされてはたまらんからな・・・!)
・・・だからこそヴァンは妹への甘さを残しながらも、同時に処分を考えるほどには怒りを感じていた。
内心で冷静にしようと頭を動かし控え目な表現にはしても、ヴァンの中にはティアが邪魔という考えがハッキリと浮かんでいた。















・・・そして数時間後、場所は王であるインゴベルトの部屋へと移る。



「・・・ヴァンにガイとやらはもう出港したか?」
「はっ、先程港から二人を乗せた船が出ました」
「そうか・・・全く、何て事をしてくれたのだ・・・そのティアとやらは・・・」
「・・・お気持ち、お察しします」
部屋の中でインゴベルトと公爵が顔を合わせて会話するが、二人ともに頭が痛いとばかりに表情を歪めている。
「ルークもそうだが、ミレーユが死んだとなればもう終わりだ・・・いかにダアトであれ、戦争は避けられんだろう・・・」
「はい・・・ミレーユ王女は人々からの評判も非常によく、名も国内外共によく知れ渡っています。一応民に広めないようにと関係者や貴族達には箝口令を敷いてはいますが、そんな存在が不慮か故意かはともかくにしても殺されてしまったとなれば、人々は黙ってはいないでしょう。それにミレーユ王女の信望者も数は多く、下手に死亡の理由を誤魔化したりダアトだからと尻込みした態度を取れば矛先は我らに向かいかねません・・・ミレーユ王女が死んだと言うのに何故黙るのか、と」
「・・・そうなればダアトと戦うことは本意ではなくとも、戦うことを選ばざるを得なくなる・・・せめて二人が生きて戻ってくるなら、まだ望みはあるのだがな・・・」
「そこは二人がルーク達を見つけてくるか、自ら戻ってくるかを願うしかありません・・・無事な状態で・・・」
「うむ・・・」
そのまま続けてミレーユを主として戦争になる可能性とそうなって欲しくないとの希望を込めた話をするが、二人の表情はやはり晴れなかった。問題の大きさが大きさなだけに楽観視出来ずに。



・・・ミレーユの存在は今のキムラスカに多大な影響があった。その立ち居振舞いに不思議な魅力は王族の証である赤い髪に翠の眼を持たずとも王族と呼ぶに相応しいと、そう人々の認識を改めさせる程に。

また、ナタリア自身は影響と考えてはいないが、ミレーユの存在がナタリアの身体的特長が王族と違うことは別段問題はない物という見方に繋がってもいた。単に王族の証があるから尊いという物ではないのだと・・・まぁそれはあくまで民の間に広まる認識であって、貴族の間ではナタリアはミレーユと同等ではなく圧倒的にミレーユの方が好ましいという認識である。

ただそれらを踏まえると、今ミレーユが殺されたも同然な状態でいなくなるということは危険としか言えなかった。公爵が言ったようにファブレでの出来事は箝口令こそ出されてはいるが知っている者は知っているし、人の口に門を立てる事は出来ない・・・そんな状態でミレーユが死んだとなれば、いかに誤魔化そうとした所で噂が出てくるだろう。何故ミレーユ王女は姿を見せないのか、と。

こうなってしまえばいかにインゴベルト達でも火を消す事は難しいどころか、下手にその事実を隠そうとしてミレーユを好意的に思っていた人物から事実を暴露された場合が何より危険なのだ・・・ダアトに尻込みしてルークにミレーユ王女の仇も取ろうとしない腰の抜けた上層部と言った声が上がり、猛烈な批判が上がるのは容易に想像がつくだけに。

・・・そんなことになればキムラスカはダアトと戦争を選ぶ以外、騒ぎを収める方法は無くなる。故にルークもそうだがミレーユの生存は何よりも願うべき事だった。その存在が国の命運を左右することになるために・・・









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