変動は静かに広まっている

・・・ミレーユが始まりと感じた時。その時が訪れた。そしてその時になって、周囲もまた動き始める。予期せぬ人間が入ってこなかったことによる影響が多大に現れる形で・・・









「・・・ヴァン・・・一体何が起こった・・・?」
「こ、公爵様・・・申し訳ありません、ティア・・・私の妹が私を襲いに来たのですが、そこでルークにティアがぶつかってしまい・・・とっさに二人に手を出したミレーユ王女が、二人の間で起きた疑似超振動に巻き込まれて飛んでいってしまいました・・・」
「っ!?・・・ルークだけ、でなく・・・ミレーユ王女までもか・・・!?」
「はい・・・」
・・・ファブレ邸にて、前代未聞の兄を襲う為の襲撃を他人の家で行うという暴挙が起こされた後。
庭の中央で苦い顔をして空を見上げていたヴァンの元にフラフラの公爵が現れたことに慌てて申し訳なさそうに状況を説明するが、ミレーユの名に愕然とする様子に更に雰囲気を重くする。
「なんてことだ・・・こんなこと前代未聞だぞ、王族二人がこのようなことになるなど・・・!」
「す、すぐに疑似超振動で飛んだ先が判明すれば探しに参ります・・・ですからどうか気を静めてください・・・」
「これが落ち着いていられるか!ルークもそうだが、もしミレーユ王女が死んだと判明してみろ!いかにダアトと言えど最悪の場合戦争に至るぞ!」
「っ!・・・申し訳ありません・・・」
公爵はそこからワナワナと震えだしヴァンはなだめようとするが、逆に一斉に噴火した怒りの声にシュンとする以外になくなる。



・・・ダアトはオールドラント全体にいるローレライ教団の本拠地であり、宗教自治区という名の一個の国と見ていい場所である。そしてそのローレライ教団の恩恵にキムラスカもまた多大に預かっている事や、人事の交流も盛んな為に両者の関係は良好と言ってもいい状態にある。

しかしルークもそうだが、王女という立場のミレーユを死なせてしまったとなれば話は別だ・・・ヴァンの発言によりヴァンの妹であることが明らかになった上に、襲撃の理由もそのヴァンを襲った物と分かったのだ。百歩どころか何歩譲った所でどうして他国の貴族の屋敷という、そこで襲う必要がどこにあるという場所で・・・そんな意味の分からない事で国の後継者となるであろう人物に加え、王女殿下が死んだとなってはいかに良好の関係とあっても関係の悪化は確実と言えた。どう取り繕ったとて、ダアトの人間がきっかけになった為に。



(ティア・・・厄介な事をしてくれたな・・・レプリカだけならむしろよかったかもしれん。預言が外れたとユリアシティにモースが愕然とするだろうからな・・・だがミレーユ王女までもが巻き込まれたとなれば本当に話は変わってくる・・・それこそ最悪の場合、ダアトの神託の盾としてという私の望まぬ立場で戦わねばならぬ事になりかねんぞ・・・!)
そんな中でヴァンは心の内でティアに対して滅多に感じたことのない憤りを感じていた。予想外の事を引き起こしてくれたことに。



・・・ヴァンはティアに対して実の妹と言うこともあり、特別な愛情を持っている。それこそほとんど知る者もいないが、自分の企みを断片的とは言え知られて自らを刺されても何もしないくらいにはだ。

だがそれでもティアの声で自分の企みを止める気があるかと言えば話は別であり、今回の事件を公私を分けて物を考えられるかと言えばそれこそ別・・・もし出来るとティアが考えているなら、言語道断と言える物である。

・・・この事件はハッキリ言ってしまえばヴァンからしても想定外としか言いようがなかった。ティアが行動を起こしてルークもそうだしミレーユまでもが巻き込まれて飛んでいったことに。そして最悪の場合になったなら、それこそヴァンの目論見が全てご破算になりかねないのだ。神託の盾にダアトどころか預言すらも凌駕するために行動してきた全てが。

そんな中でヴァンが最も最悪と思っているのはそれこそ神託の盾としてキムラスカと戦うという展開である・・・元々目的の為に神託の盾という場所を利用するだけでいたヴァンだが、そこで神託の盾やダアトになど愛着も思い入れもないどころかむしろ逆の感情を抱いている。それなのにもし戦争となって、キムラスカが相手となれば今の手元にあるヴァンの兵力では質はともかくとしても数は圧倒的に不利としか言いようがないのだ。更に言うなら神託の盾全部を総動員したとしてすら、キムラスカの所有する兵力に及ばないのだ・・・そんな時に神託の盾を離れれば自殺行為としか言いようがない為に神託の盾として活動せねばまともに生きる道がないのだが、所詮兵士をまとめる立場にいるヴァンは前線に行き戦うことを命じられるだけの立場にしかいない・・・そんな結末はとてもヴァンからして認めることは出来なかった。



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