比較は似た立場ほど明確に差が現れる

「・・・やっぱりアッシュそのものを連れて帰らないと、ナタリアは納得してくれないでしょうね・・・でもそうしたらルークがどうなるか分からない不安があるから、難しい所ね・・・」
・・・それでインゴベルトが部屋に戻っていいと言った為にミレーユは部屋に戻り、水晶球の前で物憂げな表情を浮かべていた。
「・・・半年後、このバチカルに謡将の妹が来ることになる・・・その時にルークに何かが起こると言うのは見えるのだけれど、そこから先が濃い霧に覆われたようにしか見えない・・・多分ルークの生まれ方がその理由だと思うけれど、だからこそ私も動かなければならないわ・・・今後の為にも」
だがすぐに決意で表情を固める。自分が動くと。



・・・実の所、ミレーユがルークを気にかける理由はそこが大きかった。勿論先に上げた理由も間違いではないが、夢占いでルークの未来を見ようとした時にハッキリとしたビジョンが出なかった事があったからでもあるのだ。

この事実にミレーユは何個か仮説を立てては見たものの結局確証には至らなかったが、ならばと考え方を変えてルークはそういう者だと思い別の方向から少しでも先であったり有利な事を知ろうと動いた・・・その結果としてバチカルにヴァンの妹のティアとヴァンからは世間話をする形でそれとなしに名前やらを引き出す形で聞いたが、そんな存在が問題を起こしに来ることを知った。もっとも何が起こるかという具体的な映像は霧がかったような映像しか見えなかったから分からないが、少なくともティアによりルークが死ぬような事はないとミレーユは確信していた。人を対象とした夢占いは、対象が死ねばもう霧がかった映像すら映らない為に。

故にミレーユは何が起こるかは分からずともそこを突破口として事態を解決していこうと考えていた。ルークを発端とした一連の問題についてを。



「ただ・・・アッシュを連れ帰ったとしても、ナタリアがどうなるか・・・あまりいい予感がしないわ。彼女の性格を考えるとルークを罵倒することもそうだけれど、それ以上の事を無遠慮に起こしかねないから・・・」
だがミレーユはまたその表情を改めて複雑そうに歪める、ナタリアの取るだろう行動に不安を抱き。



・・・ミレーユからして本物の『ルーク』であるアッシュが現れたなら、ルークに対する態度は想像に難くはない。記憶という証拠を示されたら誰よりも切り替えを早くアッシュを『ルーク』として認識し、ルークを偽物と断じた態度を取る・・・と。

そうなれば事の次第ではルークも生き残れるかもしれないが、ナタリアの立場にルークが産まれた経緯を考えるとどうしても無事に済む可能性が高いとは思えないとミレーユは考えていた。そんなことを看過出来るはずもないと。



「そうさせないようにはしたい、けれど・・・いざとなったら私がルークを守るわ・・・王族の地位が無くなろうとも・・・!」
しかしミレーユは既に割り切っている・・・もしもの時は全てを捨ててでもルークを守る側に立つ、そうする決意はあると。



























・・・そしてこれより半年後、ミレーユの夢占い通りにティアが来ることになり物語は始まる。かつて魔王という存在と戦った旅とは一線を画する、人と人が向き合う戦いの物語は。



そしてその物語の中でナタリアは知ることとなる・・・本来存在し得ぬ筈だった異分子とも言える存在に自身の浅はかさ、軽率な行動を人々から批難されることを。









END








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