比較は似た立場ほど明確に差が現れる

「・・・戻ったか、ミレーユ」
「はい、お義父様」
・・・それでナタリアを呼び戻すという用事も済み、ルークに別れを告げてからファブレを出て城に戻ったミレーユ。それで部屋に戻る際にミレーユは伝令の兵士により、インゴベルトの部屋に向かうようにと伝えられそちらに向かった。
そこにいたのは何とも言えない表情のインゴベルトだが、ミレーユはそこにはつっこまずに頭を下げる。
「呼び出したのは他でもない・・・またナタリアとルークの婚約を解除し、お前とルークを婚約させてほしいとの嘆願が来た」
「分かっています。ですがそうしてしまえばナタリアが快く思わず、感情に任せて行動を起こすでしょう。お義父様には苦労をかけますが、また断ってくれませんか?」
「うむ、お前ならそう言ってくれるとは思っていたが・・・そもそもナタリアがルークと以前のようにとは言わずとも、仲睦まじくしてくれれば問題はなかったのだがな・・・話を聞けばルークもお前の方になついていると言うし・・・ふぅ・・・」
「・・・」
それで早速と用件を伝えるインゴベルトにミレーユもすぐに断ると言うと、現状についてを疲れたよう頭に手を置きながら漏らす姿に何も言えずにミレーユは苦笑いを浮かべる。









・・・基本的に国王という立場になるのは、男であるのが望ましいと見られている。女性が王になることは妊娠をして子を為した場合などを考えると、王としての公務を満足にこなせないために。故にナタリアが王位継承権が上にも関わらず、ルークが次期王になると見なされているのはそういった事情があるからである・・・しかし、ミレーユの影響によりルークとナタリアの婚約に異を唱える者が出てきた。

まず言ってしまえばミレーユとナタリアの評価に関して言えば、ミレーユの方が裏表問わず上なのは事実だ。その上でルークがどちらを好きかと言えば、これもまたミレーユの方になるのである。ここにいたのが本物の『ルーク』であるアッシュだったなら間違いなくナタリアを選んだであろうが、そこはここにはいないので置いておく。

人望で言うならミレーユが上という事実は疑いようはない・・・更にこの問題に拍車をかけている事が一つある。それはミレーユとナタリアの、どちらも赤い髪に翠の瞳を備えてはいないということだ。

本来なら王族の血を保つ為に見栄えとしても同じ特徴を持つ者同士をくっつけさせる方がいいのだが、生憎ミレーユもナタリアもそんな特徴を備えてはいない・・・故に見栄えに関してはどうしようもないというのは確定事項ではあるのだが、だからこそ貴族の間で話が出ているのだ。多少の遠慮こそインゴベルトの為にも加えられているが、我の強いナタリアよりもミレーユをルークにあてがう方がいいのではないかと。

・・・もしナタリアが王族の特徴を備えていたならまだ、そういった意見が出ることも少なかっただろう。しかし生まれはともかくとしても、見た目は共に王族の特徴を備えていないのだ。そして先に上げたよう、貴族を主にしてミレーユの方の評価が高い・・・こう考えると後々面倒そうなことになりそうなナタリアとルークが結婚するより、十分良好な関係を結べていて性格も穏やかなミレーユとルークが結婚する方がいいと貴族達が思うのもある意味必然と言える物・・・だからこその働きかけだった。ナタリアとの婚約解消について持ち掛けてくる事は。



・・・だがインゴベルトにミレーユの見方は違う。そんなことをすればナタリアが癇癪を起こすのは火を見るより明らかで、まともな言葉では止まらないだろうし場合によってはルークにすらも手を出すかもしれない・・・そう二人は思っていた。そうなれば事態の収拾は簡単に出来ることではないと。

故に下手にナタリアを刺激する訳にはいかないと二人は話をした上で今までの婚約についての声を却下していったのだが、別にインゴベルトもミレーユも正直な所はそうしてもいいという気持ちはあるのだ。インゴベルトからすれば今後の事もあるがルークとナタリアの相性が悪いならいいのではと考え、ミレーユからすれば恋愛出来るかと言われれば精神年齢の差で難しくとも、将来結婚する相手としてルークがあてがわれたなら満更ではないとの気持ちがあったために。

ただそういった考えをナタリアが許すはずがない。『ルーク』との記憶にこだわり未だに夢見る乙女のようにその時の事を思い出し頬を赤らめる・・・悪い意味で成長の見えない行動を繰り返すナタリアが。







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