比較は似た立場ほど明確に差が現れる

・・・ルークがファブレに来た時、ナタリアが取ってきた行動はルークを心配するという名目の元でその実、記憶が戻ってないかと暇を見てはそれを伺いに来るというものであった。そしてそれは今となっても止めることはない。ナタリアはルークの記憶が戻ることは絶対に必要な事だと考えている為に。

対してミレーユは遠見などにより真実を知ったこともあるが、アッシュと同じようにではなくルークと新たな関係を築くことを選んだ。ヴァンの思惑はあれどもルーク自体には悪意などなくファブレに連れてこられたことに、初めて会った時に赤ん坊のようにまっさらな姿を目の当たりにして久しく忘れていた保護欲というものを思い出した事によって。その為ミレーユはルークに昔のようになどと求めることもなく、むしろ一つ一つルークが知らないことを優しく教え込んでいった。分かりやすく知ることを楽しめるようにと丁寧に。

・・・そんな両者のルークへの行動に対応の差は、ルーク当人にでもあるが周りの人間にも両者に対する評価の差を生むこととなった。ナタリアは視点が狭く自分の事を優先し、ミレーユは適切な距離感を見極め相手の事を思いやる人物と・・・そしてその差もまた、二人の距離を微妙に埋めれそうで埋めれない理由でもある。



・・・ナタリアからしてみれば何故自分のようにルークの記憶を求めないのかという激しい葛藤がミレーユに対してあるが、一応義姉であることに加えて見た目の年齢にそぐわない落ち着き払った年上としての空気が常に漂っていて尊敬もしていない訳でもない。そんな人物相手に一人自分の気持ちを優先しわめき散らすなどすれば、自分が子供であることを認めて惨めになるだけだということはナタリアもうまく言葉に出来ないなりに感じていた・・・同時に、それでもルークの記憶という取り戻したくて仕方ない物は諦められないとも感じる形で。

故にナタリアはミレーユとルークの事について話をする事を意識的に避けた上で直接ルークに会うという逃げの一手を逃げと認めず使ってきたのだが、ミレーユから逃げることを前提としての行動故に彼女と出来る限り顔を合わせるのを避けたいナタリアは出来る限りミレーユが公務などで手を離せない時などを選びファブレ邸に向かっていた。

しかし本来隠し事や後ろめたい事を誤魔化すと言った事に関しては壊滅的な程に才能がないナタリアの行動は、すぐにパターンが読まれる事になった・・・現にミレーユの元に来たメイドがそうなのだ。ナタリアが勝手にファブレに行く、もしくは行ったとなったらミレーユにそれを伝えに行き引き戻しに行ってもらう・・・簡単にそう読めて、ミレーユに無駄足を踏ませたことなど今までに一度たりとてないほど百発百中で当たるパターンを。

そしてミレーユがファブレ邸に来て余程いい言い分がなければ彼女に反論しないナタリアは渋々帰る、と言うのがパターンになるのだが・・・何度やっても諦めることなく城を抜け出すばかりかファブレ邸に行った後はまず間違いなく苦々しく表情を歪める様は、ナタリアに近い者に共通した想いを抱かせた。それは『いい加減ミレーユ王女のように落ち着いてほしい』というものだ。

これに関してハッキリとミレーユに非は一片もない。ミレーユ自身はただナタリアを連れ戻してほしいと願われて行動を起こしているだけなのだ。それもナタリアには内緒にされてはいるがインゴベルトから頼まれてやっている形で。ただミレーユという比較対象がいるからこそ目立つのだ・・・ナタリアという人物の粗が。



・・・対してミレーユとしてはナタリアに対して自重してほしいと思う気持ちはあっても、ナタリアを疎ましいと思ったことはない。むしろ過酷な幼少時代に魔王と呼ばれるような存在を見てきたことで、この程度はかわいいものと思うくらいでそれ程にミレーユの懐は深い・・・だが周りはそう思わないということもミレーユは知っていった。自身に対する態度から。







6/9ページ
スキ