比較は似た立場ほど明確に差が現れる

「でも毎度毎度よく飽きないよな、ナタリアも・・・記憶を思い出せねぇのはどうしようもねぇし思い出したら言うっつってんのにさ」
「・・・その辺りは気にしないでと言うよりは我慢してあげて、ルーク。その代わり私が貴方の不満を受け止めてあげるから」
「っ、べ、別にいいって・・・いつもこっちが世話になってるんだし・・・」
「フフ・・・」
ルークは頭をかきながら愚痴を吐くが、ミレーユが近付いて頬を手で撫でながら笑顔を見せると顔を赤くして視線を背ける。そんな動作をミレーユは微笑ましげに見つめる。









・・・ルーク。ナタリアの婚約者であり実質的に次期キムラスカ王となる立場にいる人物。だが七年前、マルクトがルークを誘拐して何らかの実験を施した事から記憶喪失になった・・・ということになっている。だがミレーユはそれは誤った事実であると知った。得意とする遠見によりあることを知ったために。そしてその遠見で知った事実は・・・今ここにいるルークは偽物であり、本物のルークはダアトという宗教自治区にいるという事である。

そもそも何故ミレーユがそれを知ったのかと言えば、ファブレの屋敷に来たルークが単なる記憶喪失と言い切るには不自然な程に何も出来ない状態にあることを不審に思い、夢占いに遠見を駆使したからだ。

その結果としてミレーユはルークの事実を知った訳だが・・・その事実を誰かに伝えることは出来なかった。自分が夢占いと遠見を駆使した事を言いたくないことに信じてもらえるか疑わしいという気持ちがあったのもあるが、その犯人がキムラスカによく来ていて信任も厚いダアト所属のヴァンであった為にだ。

・・・この時、ミレーユは事実をそのまま伝える事はないにしても疑いの目をヴァンないし他に向けるように進言することも出来ない訳ではなかった。だが慎重を期して夢占いを色々な状況を想定したシミュレートに使うという本来の使用とは全く違うやり方を試みたのだが、結果として・・・どうやっても状況がより一層悪くなるという結末しか浮かんでこなかった。そればかりか・・・ナタリアですらがダアトによりすげ替えられていたという、更に衝撃的な事まで知ってしまった。

ルークだけでなくそのナタリアの事実・・・これらはキムラスカとダアトが揉めた時、ほとんどの場合のシミュレートでナタリアの事実を用いられる形でキムラスカを封殺されると出た。そしてナタリアの事実を盾にされてキムラスカは逆にダアトの言いなりにならざるを得ない状況になると。

だがそうでない場合のシミュレートをしてもキムラスカがダアトに対して徹底的な抗議をして戦争にまでいかずとも、冷戦に近い状態にまでなるのが結果だったのだ・・・こんな結果が待っていては、ミレーユも事実を言うことなど出来るはずがなかった。



・・・故にルークとナタリアについてを沈黙せざるを得なかったミレーユだったが、それでもやれることがないわけではないと思っている。その中の一つがファブレに来たルークに、ダアトに連れていかれた『ルーク』・・・今はアッシュと名乗っている、二人の『ルーク』についてである。

・・・ミレーユは元々アッシュと仲が良かったかと言えば、特筆していいとも悪いとも言えない間柄だった。これは特に二人の間に接点がなかったからである・・・ナタリアの婚約者とナタリアの義姉、と言うくらいにしか接点が。それにアッシュ当人も明らかにミレーユよりナタリアの方に婚約者という立場もあってか優先的に近付いていた為、あえて邪魔をするよりはとミレーユは二人の間に入るような事はしなかったのである。

だからこそアッシュとの記憶を思い返してもミレーユには特に印象に残るような思い出はないのだが、ルークがファブレに来てから『ルーク』との関係はミレーユとナタリア共に一変し・・・二人の関係を更に微妙にしたのである。








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