比較は似た立場ほど明確に差が現れる

・・・キムラスカにおいて王族の血を引くと認知されている者は最早数人しかいない。それはキムラスカ王家が王族の血を徹底して管理してきたこともあるが、その中で世代を経ても赤い髪に翠の瞳を持たない人間を意図的に排していたからでもある。

故に王族の証である赤い髪に翠の瞳を持つ者。そしてその王族の結婚者のみが王族と認められた。内外ともに示しをつけるために。

だが王族の存在の数の少なさに加え、とある事情が加わったことにより王族から外された貴族の末裔が再び王族と祭り上げられることとなった・・・これは本来の歴史になかった人物が物語に加わる話でもあり、本来いなかった人間が紛れ込んだ話でもある・・・


















「・・・ふぅ」
・・・自分の部屋の机に座って書類を前にし、気だるげな息を吐くどこか不思議な空気を滲ませる金髪の女性。その部屋は片隅のテーブルの上に水晶球がある以外は調度品の質が上等の物であるという事を除き、物の少ない部屋であった。
「彼もレイドック城に戻ってからこんな風に書類と向き合っていたのかしら?私達と会う時は表向きは何もないように明るく振る舞っていたけれど、それを悟らせなかったのはすごいことだったのね・・・」
そしてしみじみと女性は過去を思い出すように柔らかい笑みを浮かべる。









・・・女性には産まれた時から記憶があった、前世の記憶と呼ぶべき記憶が。そしてその中で女性は旅をしていた、魔王を倒す為の旅を仲間と共に・・・女性の名に姿は奇しくも前世と同じく、ミレーユである。

最初、再び記憶を持って産まれた時にミレーユは何故との気持ちを抱いた。だが前世での様々な経験からそういうこともあると、本人が一番意外になるほど冷静に事態を受け止めた。ただ唯一残念な要素があるとすれば、前世での弟であった存在が今生では生まれてこなかったくらいである。

・・・それはさておきとしてミレーユは再び生を受けた後、色々と調べものをした。前世でお世辞にも恵まれているとは到底言えなかった環境と違い、彼女の仲間で後に勇者と讃えられた人物のいた環境と比べて遜色ない環境を見たことに疑問を抱き・・・そこでミレーユはこの世界、オールドラントが前に生きてきた世界とは様々な点で違うことと共に、今の自分が産まれた家が遠い昔にキムラスカの王族として名を連ねていた貴族だということを知った。

最初、ミレーユはその事を知った時にどういうことなのかと思った。だが前世で数々のとんでもないことを経験した上に今また二度目の生を受けたというまず有り得ない事実があったこともあって、慣れればいいことだとかつての仲間内でもトップクラスにメンタルが強かった事もありすぐにミレーユはその生活に順応していった。

・・・そんな風に気持ちを切り替えたミレーユは元々の経験もあり、見た目の年齢にそぐわぬ落ち着きで今生の親達に迷惑をかけることもなく慎ましやかに過ごしてきた。しかしその生活もある時、終わりを告げた・・・









「でも王族の血を薄いながら引いてるからって私が王族として祭り上げられたなんて知ったら、皆どう思うかしら?」
思い出に浸る中でふとミレーユは今の自分の立場をおかしく思い、かつての仲間の反応を想像したこともあり一層楽し気な気分になる。









・・・それはミレーユが5才の時で、時期としてはマルクトとの間で行われたホドでの戦争の後である。

当時のミレーユは自分を産んでくれた両親の元で生活をしていたのだが、突然インゴベルト陛下に両親共々呼び出されることとなった。その用件は要約すると『ホドに向かった公爵は命からがら生き残る事が出来たが、一歩間違えれば死んでいたやもしれぬ事態になっていた。これから先に似たような事が起これば今度はどうなるか分からないが、今キムラスカには王族は数が少ない・・・故にもしもの事を考えて特例という形で王族の血を薄いながらも引いてるそなたをわしの養子とし、王族として迎え入れたい』というものであった。

この時ミレーユは両親に伺いを立て、王命なら従いなさいという両親の言葉を聞いてすぐに頷いた。養子になると。とは言ってもそれは両親の言葉があったからでもインゴベルトからの願いだったからではない・・・ミレーユ自身に思惑があったからである・・・












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