善意は必ずしも報われるとは限らない

・・・どちらかに嫌われる覚悟。それをナタリアは持ち合わせていない。故にアッシュに罵倒されるルークを庇いはせずに申し訳無いと思うだけで、表立ってどころか人のいない場所でも謝ることはまず出来ないだろう。何故ならアッシュより公然的な立場を下にしてしまった大元の理由は他でもないナタリア自身で、迂闊にピオニーから言われた中身を示唆するような事を漏らしでもしたらそのナタリアの立場すら危うくなりかねないのだ。ナタリアはそんな危険を犯してまでルークに対し、行動するような人間ではないのだが・・・だからこそアッシュのルークに対する態度を諌めることも出来ず、ただ苦しむことになるという悪循環に陥ることになるとピオニーは考えていた。



「・・・と言ってもまだアッシュとルークが戻るには時間がかかる。その間に改めて根回しをするか。もし俺が退位しても政治に関わる権利を戻すような事をしないようにとな・・・」
それでピオニーは表情を一度改め、表情を真面目に引き締めながら部屋を出ていく。



・・・ピオニーはナタリアに無期限に政治への参加を禁ずるというように言ったが、元々からその権利を返すつもりは毛頭なかった。そしてそれはピオニー自身だけでなく、ライマの重臣一同総意の事でだ。

それは何故かと言えばナタリアとしてはもし政治に戻るとなったら、失われた信用を取り戻そうと躍起になってまた何かをしでかさないかとの不安があるからだ。

今回はまだ王女殿下という身分であることからピオニーがナタリアを裁けはしたが、もしこれから先の時代でナタリアがアッシュの妃として政治に参加したならその行為が大半の者に歓迎されない物ならその時にナタリアを裁けるのは立場的に上位になるアッシュ以外にはいない。いないのだが・・・どう転がった所でアッシュでは口頭による注意だけという、酷く甘い裁定を出すくらいが精々だという光景しか目に浮かばないのだ。他の貴族達には貴族らしくと振る舞いロクに表情を崩さないのに対し、明らかに恋仲であるナタリアにはほぼ素で心を許してると言った態度ばかりを取るアッシュではだ。

そんな今のアッシュを見て将来は大丈夫などと、楽観視出来る程ピオニーに貴族達は甘くはない。むしろ王位を継いだ上でナタリアまでもを得たとなったなら、満願叶ったとばかりにアッシュは二人で国をより良くしようと一層張り切り、ナタリアを罰するような事は余程の事態でなければ有り得ないとしかピオニー達は思っていない。

・・・だからこそピオニー達はナタリアには政治に再び参加出来るような権限を与えるつもりはないのだ。これからのライマの為にもだが、ナタリアを増長させないためにも・・・



「成程、ではナタリア様にはお話はされたのですね?」
「あぁ、後は殿下に大人しくしていただくよう後々の対応を改めて協議する必要がある。しばらく付き合ってもらうぞ」
「はい・・・このような事は申し上げたくはありませんが、インゴベルト前陛下の忘れ形見であるナタリア様がこれ以上の恥の上塗りをするのは見てはいられませんから・・・」
・・・場は変わり、円形の机がある部屋の中。円の頂点に位置する場所に座るピオニーに周りの貴族達は頷いて返すが、一部の貴族は苦い顔を浮かべる・・・その貴族は前陛下のインゴベルトの信奉者なのだが、流石に庇いきれない愚行を起こした事もあってナタリアを擁護する事を諦めた貴族であった。












・・・今はまだ、一人でいられるだけいいだろう。だがナタリアにとってはこれからが地獄になる。ハッキリとした態度を取れないどっち付かずの態度が故に、これからの政治に遮二無二と償いの為に動くことが出来ないが故に・・・だがそれもこれも身から出た錆であると同時に、理解していなかったからだ。独りよがりの押し付けがましい善意は、時として悪意よりタチの悪い事態を産み出しかねないと言うことを・・・









END











23/26ページ
スキ