善意は必ずしも報われるとは限らない

・・・一応ピオニーもライマの王という身分にいる身で、何かただならぬ事が起きれば厳正に私情を抜きで事に対するくらいにはオンオフの切り替えは出来る。

そんなピオニーが貴族達と話をした上でルークを始めとした周囲を含めてのナタリアに対する処罰に関しては妥当な判断だとピオニー自身考えているし、貴族達も太鼓判を押した・・・だがそこから先のナタリアが体験するだろう苦しみを望んでいることに関しては、ハッキリとピオニーの私情と言えた。そしてそのナタリアの苦しみとは何かと言えば・・・ルークとアッシュの両者の間に挟まれるジレンマ、である。

おそらく程度ではなくまず間違いなくナタリアはルークに対する申し訳無さを抱くだろう。自分がしたことでルークをそうしてしまったことに。しかしその一方で影で想いあっていたアッシュと形はどうあれ、結ばれることになったのだ。現に先程もその事実を聞かされた時、戸惑いつつも喜びがどこかに感じられる声を上げていた・・・しかしそこで二人の間に挟まれたナタリアは苦しむことになるのは明白なのだ。

これもおそらくどころではなく確実に言えることだが、アッシュは王位を得るとなったならルークを今以上に罵倒するようになるだろう。ただピオニーはそんな一方的にルークが罵られるような状況にはしないようにと動くつもりではいるが、側にいるナタリアは・・・どうにも出来ない、いや正確には何もしないだろう。



・・・ここで話は少し変わるが、ナタリアがアッシュを本気で詰めるような事を言ったことは今までにただの一度もない・・・それはナタリアからして見れば惚れた弱味もあるのだろうが、その実はアッシュに対する申し訳無さに加え我が身がかわいいという気持ちがが根底にあった。

一応王位継承権を持っているとは言え、元々アッシュはルークに何かあった時の代わりという立場にいた。なのにそういった立場のアッシュと仲がいいばかりかルークを差し置いて許されない恋情を育むということで、ルークにもだが、アッシュにはルークより明らかに強い申し訳無さを生んでいた。

このまま恋に身を委ねてもまず成就する筈もない恋なのに、それを振り切ることも出来ずに尚もアッシュを求めてしまう・・・そう言った気持ちを持つことでルークに対する申し訳無さが生まれると同時に、本当に好きなアッシュのことを振り切ることが出来ないことにアッシュへの申し訳無さがあるのだ。きっぱり断ち切って割り切るのが本来なら望まれることであるはずなのに、それをしないからこそ申し訳無さが生まれる・・・そしてそれこそがルークとアッシュの二人に対するナタリアの態度の大元の理由でもある。

・・・ナタリアからすればルークを立てるのが本来の在り方なのだが、本当に好きなのは間違いなくアッシュ。だがアッシュはルークの弟であり、ナタリアの婚約者はそのルーク・・・そう言った両者に対する申し訳無いという気持ちからナタリアはどちらかに寄った立場でハッキリと味方をするようなことが出来なかった。いや、どちらかと言えばアッシュに寄ってるといった方がいいと言えるだろう。二人が喧嘩をしたなら気にかけるのはいつもアッシュの方であり、理不尽な喧嘩を吹っ掛けても結局はアッシュを優先するのだから。

ただそうは言ってもナタリアが表立ってどちらかの味方をして間に入ったことなどほとんどないし、ましてや途中で怪我を覚悟してでも止めに入ったことなど一度もだ。これはナタリアが二人に対しての申し訳無さを抱いていることもあるが、それを言い訳にしてある種の逃げに走ってもいるからでもある・・・自分はルークとアッシュのどちらも嫌っていないと自身の保身の為に示すことで。

これに関してナタリアは違うと言いはするだろうが、もし本当に保身など関係無く二人を止めたいというのであればいついかなる時でも仲裁に入るべきなのだ。しかしそれが出来ず後で嘆くだけの姿を見ていれば、我が身を捨ててでも二人を止める気などないという風にしか見えないことは否定は出来ない。そしてこの事を突き付ければ、ナタリアは言うだろう。自分にはどうすればいいか分からない、と。

・・・だが結局ルークを選ぶにしろアッシュを選ぶにしろ、どっち付かずの態度を取っている事実に変わりはない上にどちらにも嫌われないように現状の維持の為に動いているようにしか見えないのは確かな事であり・・・ピオニーもそれを少なからず感じていた。









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