善意は必ずしも報われるとは限らない

「・・・よし、じゃあガイを呼び出してやる。後はガイと一緒に部屋に戻れ」
「・・・はい・・・」
それで言うことを言い終わり体を背け入口のドアに向かいながらガイを呼ぶと言えば、最早余計な事など何も言えず虚ろな眼差しを浮かべながら静かに一言返すしかナタリアは出来なかった。









・・・それで部屋に入ったガイはそんなナタリアの姿に驚きを浮かべたがピオニーの普段の陽気な表情を見せない冷たい表情にすぐに気を取り直し、必死に女性恐怖症を我慢しながら寄り添うように二人で部屋を後にした。
「・・・行ったか。流石にあそこまで言えばいくらナタリアでも自重はするだろうが、やはりこれからも注意は必要だろうな・・・ふぅ・・・」
部屋に一人になったピオニーは表情を疲れたといったように崩し、頭を抱えながらタメ息を吐く。
「・・・全く、厄介な事をしてくれたもんだぜ・・・だがこれで少しは思い知っただろう。自分がやったことを。そしてこれから時間が経つほどに思うだろう・・・自分がぬけぬけと幸せを享受していい立場にいないことをな」
そしてぼやくようにナタリアに対する愚痴を口にする一方、今とこれからのナタリアの暗雲を示唆するような事を口にする。



・・・ピオニーは元々ナタリアの事をさして嫌ってはいない。むしろ腹に一物を持った輩が多い貴族達の中では、群を抜いて好感を持っているとすら言っていい程である。だが今回のアクゼリュスの件で様々な迷惑をかけられたこともそうだが、自分の行動がどのような影響を及ぼすのかをいいようにしか曲解しない様子にピオニーも呆れ果てたのだ。

更にはピオニー個人からすればナタリアに対して思うことはまだある。それは・・・



「今はいいだろう・・・まだ今は様々な事を考えるだけの時間はあるし、一人になれば落ち着くことも出来る・・・だがルークとアッシュの二人が帰って来てからが、お前の苦しみの始まりの時だ・・・!」
ピオニーは続けざまに目を鋭く細めながら、ルークとアッシュの名を出す。



・・・そう。ルークとアッシュ、正確にはルークに対する想いである。ただここでならアッシュはどうなのかと言われれば、別段ピオニーはアッシュを嫌っているわけではない。単にアッシュよりルークに対する好意が高いだけなのだ。それも圧倒的に。

これはルークが王族らしくない言葉遣いであったり付き合いやすい人柄もあるのだが、もっとも大きな理由としてはピオニーの目から見ても明らかに不本意だと分かる婚約を受けている事にある。

・・・実際はライマでは城の中にいるほとんどの者に知れ渡ったザルもいいところの穴が大きく空きっぱなしの暗黙の了解にも等しいアッシュとナタリアの両想いの件だが、度々ガイなどに色々愚痴の形で言いはするがルークは婚約解消については正式な異議申し立てをしたことはなかった。ルーク自身も二人の仲については当事者であるからこそ誰よりもよくわかっている筈で、言うだけ言うことも出来た筈なのにだ。

普段なら不満を素直に口にするルークだがそれに関して口にしない理由をピオニーは一種の諦めと見たと同時に、アッシュがけなすほどにルークは出来が良くない訳ではないと考えていた。そうしてしまえば面倒な事になることを理解してはいるが、それを素直に口に出すことはない代わりにどう自分の中の感情を表現していいか分からずに四苦八苦しているのだと。そしてそう考えるピオニーは個人的にルークの方をアッシュより気に入っていた。余程の事がなければ自分の後を継ぐのはルークにすると決めきっていたくらいに。

・・・しかしそんな思惑をナタリアは打ち砕いてくれた。それもまず修復不可能とまで言えるレベルにだ。









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