善意は必ずしも報われるとは限らない

「お前がアッシュのルークに対する態度はどういった物と思っているかは、この際それはどうだっていい。重要なのはアッシュ本人がどう思っているかもそうだが、ルークに対する態度がいつまで経っても変わらんと言うことだ」
「か、変わらないって・・・」
「言わなきゃ分からんと言うなら言ってやるが、ルークに対しての罵倒を始めとした態度だ。ハッキリ言って、俺もそうだが他の貴族達もみっともない以外の何物でもないと見ている。いつまで経っても変わらんその態度をな」
「っ!?あれは、アッシュはルークの事を発奮させようとして・・・!」
「なら聞くが、それがハッキリとルークのためにわざとやっている事だとアッシュからお前は耳にしたのか?・・・まぁ耳にしていたらしていたででお粗末としか言いようがないがな。結果として互いの間での反発だけしか起きず、発展も何もない悪手をただごり押ししかしていないことの証明になるんだからな」
「っ・・・!」
そしてアッシュのルークに対する態度について悪印象しかないと口にしていくピオニーにナタリアは何とかアッシュを擁護しようと反論するが、その言い方を逆手に取られた言葉を受けすぐさま言葉を失った・・・どう答えてもアッシュが取った行動を否定出来るような材料がナタリアには見当たらなかった為に。
「まぁアッシュの考えが本当の所がどうかなどは今も言ったが、どうでもいい。重要になるのはルークに対する苛烈な態度だ・・・想像してみろ。お前がアッシュに泣きついて真実を話してそれで何かを言われるのはまずお前じゃなく、ルークだ。普段の行動を考えればアッシュがナタリアを悲しませたのはてめぇのせいだと言って、全部暴露した上でルークを罵倒するのは目に見えている」
「アッシュが、そんなこと・・・」
「しないと信じるのは勝手だが、したらどうやって取り返しをつける気だ?お前は」
「えっ・・・!?」
「俺はそうなったらほぼ100%の確率でアッシュが行動を起こすと思っている。その事に関しては信頼しているとすら言ってもいい。だがそうやって怒りのままにルークを詰めるとなったら当人に知られてはならない事実を知られることもそうだが、場合によっちゃその周りにいた奴らにまでアクゼリュスからの事が芋づる式に知られることになる・・・そうなりゃ折角必死に取り繕ってなんとか形にしたアクゼリュス救助を、本当はナタリア殿下の暴走による尻拭いを各国の代表者達にまで協力させて行わせた事がバレちまう事になりかねないんだぞ」
「!!!!」
・・・そして今まで以上にナタリアにとって最悪な爆弾が投下された。
アッシュが怒りのままに行動したなら最悪、ナタリアの無知で恥としか取れない行動の全てを知られる・・・王族としての体裁を誰よりも気にしてプライドを振りかざすナタリアからして見れば、それが一気に打ち砕かれ無に帰するという無上の恐怖のあまりに地面にへたりこみ体を抱きながらブルブルと震えだした。
「分かるか?そんなことになったら取り返しがつけようがないばかりか、俺達は世界に大きな恥を露呈することになるんだ。そして騒ぎの張本人であるお前は名誉を失うといった程度じゃ生温く、大半の人間に身勝手な事をした人間という見られ方をされるだろう。そうなればお前が王女殿下としてどういった責任を取らなければならないか・・・少しは予感しているようだな、その様子なら」
「っ・・・はぁ、はぁ・・・っ!」
「・・・随分と苦しそうだな。だが安心しろ、後少しで終わらせてやるからそれから部屋で存分に休め」
ピオニーは続けて国と共にナタリアの責任について言うが、過呼吸気味に息をして汗をかいている様子にまとめに入る。
「これからお前に求められるのはアクゼリュス以前などとは比べ物にならないほどの自制心を持って動くことだ。今言ったのは大きな視点から見た物だが、もしそうなった場合はそのことをバラしたアッシュにも当然責がかかる・・・その事を重々に承知した上で行動しろ。そしてもしそういうことになった場合、残酷に感じるかと思うが事態の沈静の為に全力でお前を槍玉に上げさせてもらう・・・いいな?」
「っ・・・はい、わかりました・・・」
そのまとめとはアッシュまでもを用いて沈黙を命じた上で出来なかった場合の容赦ない処置の事で、ピオニーから最後に確認を向けられるとナタリアは蚊の鳴くような声で力なく頷いた。






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