足を踏み入れしは自らが作りし墓穴

「おい、聞いたか?インゴベルト陛下が戦争への声明を撤回したってよ」
ベルケンドでの街の片隅で行われている井戸端会議、兵隊の男だけというむさ苦しい会話の中に勇んで入ろうとする輩は普通はいない。だが彼らは違った。
「おい!それは一体どういう事だ!」



兵隊達の会話に怒鳴り声をあげてオリジナルルーク、現アッシュは勢いよく詰めかける。
「あ?なんだ、お前?」
しかし兵隊達はダアトの法衣を着ているアッシュの無礼な質問に不快な感じに素っ気なく答える。
「まあ!なんと失礼な!彼はルーク・フォン・ファブレです!ベルケンドの領主であるクリムゾンおじ様の息子ですわよ!」
その兵隊達の態度にカチンときたナタリアはアッシュの擁護へと回る。彼女からすれば、「あんなレプリカごときにお前を守る事は出来ん、叔父上にも俺が話を通して説得してやる」と自らを奮い立たせてくれた存在を侮辱されるのは我慢ならないのだろう。
だが兵隊達は一向にその言葉に怖じる様子はなく、逆に鼻で一行を笑う。
「何を言っている。そのルーク様は戦争を止めるために既にバチカルに戻られた。証拠としてインゴベルト陛下はその意見をすぐさま受け入れられ、ほんのついさっきにキムラスカ全土の軍駐屯地に戦闘行為禁止の鳩がルーク様名義で出された。ルーク様がここにいるわけはないだろう」
「なっ!?」
アッシュが驚きの声をあげて、周りの面々も同じように絶句した表情を見せる。ただ兵隊達はそんな一行に対して嘲りの雰囲気を隠しもしない。
「大体ベルケンドにルーク様が来ているとしてもダアトの神託の盾の服など着るはずもないだろう。キムラスカとマルクトに戦争をさせようとしてたダアトなんかの制服をな」
「ちょっと!それは一体どういう事なの!?」
兵隊達のダアトへの嘲りを受けて、未だ自らの上司に絶望的な希望を託したいと夢を見てアッシュ達に付いていく事を選んだティアが噛み付いてくる。
「ふん、ダアトの奴らなんかにそこまで言う義理なんかねぇよ」
「持ち場に戻ろうぜ。こんなダアトの奴らと話してると戦争がしたくなってくるからな」
解散と言わんばかりに辺りに散らばりだしたキムラスカ兵を見て、イオンが顔を青くしてよろめきアニスがそれを支える。
「待て!てめぇら!」
「おい!落ち着け!アッシュ!」
今にも抜刀して無理矢理切り掛かって兵士を押し止めようとするアッシュに、ガイが羽交い締めをしてアッシュを抑える。それでも尚暴れるアッシュを見たジェイドはアッシュの目の前に位置つく。
「アッシュ、今あなたがここで問題を起こせばダアトに対する心象が悪くなりますよ」
「だからなんだ!今重要なのはあいつらから情報を聞き出す事だろうが!」
「そのような行動自体がルークの思惑にすら入っているかもしれないと知ってもですか?」
「・・・何?」
ルークの考えと聞き、アッシュは今までの喧騒が嘘のように静まり返る。
「・・・大佐ぁ、どういうことなんですかぁ?」
「ルークがあの預言の事を知っていたのは明らかです。彼には常にC.C.、ユリアに預言を詠ませるきっかけとなった灰色の魔女がついていたんですからね」
ユリアシティでのルーク達とのやり取り、あのあとジェイド達はテオドーロに創世歴時代の文献を閲覧させた(させたというのは起き上がったアッシュが経過を聞いてテオドーロに剣を突き付けたため)。そこで彼らはローレライとの契約を交わして預言を詠んだのではなく、灰色の魔女と銘打つC.C.が授けたギアスという能力で預言を詠みローレライとの契約でその預言を譜石に遺したという真実を知った。
「彼女なら預言を知っていてもおかしくはない。そしてキムラスカにルークが戻って戦争回避のための行動を取ったのは預言を外そうとしている事も裏付けています」
「だからなんでダアトの評価が下がる事がルークの考え通りなんだ?」
「まぁこれは推測ですが、ルークはダアトに全ての罪を被せる・・・いや、精算してもらおうと考えているのではないかと私は考えています」
「精算!?一体どういう事なんですか!?ジェイド!」
青い顔ながらもイオンは声をあらげ、ジェイドに問い掛ける。




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