善意は必ずしも報われるとは限らない

「代わりを用意すればいいと言ったな?だったらそれはどこから用意しろと言うんだ?他の誰かがやってる公務がちょうどいいからと譲ってもらい、それで補填しろとでも言うのか?」
「っ・・・そ、そうすればいいのではないのですか・・・?」
「ではその譲ってもらった奴はどうしろと言うんだ?いきなり自分のやることが無くなったんだぞ?あぁ、言っておくが一緒にやればいいというのは無しだ。やることを譲られたと言うことは主導権にその公務による成果をもらったも同然の行為だというのに、更に自分の為に手伝わせると言うのはあまりにも身勝手過ぎるからな。で、どうすると言うんだ?」
「っ・・・!」
そしてピオニーから矢継ぎ早に向けられる問い掛けはナタリアの言葉を失わせ、冷や汗を浮かべさせる。
「・・・答えられんようだから話を少し変えるが、先のアクゼリュスからの救助の依頼はこのような言い方はどうかとは思うが、ルークに公務をさせるにはまたとない絶好のシチュエーションだった。アッシュが今別の大きな公務についているのもあるし、規模の面から見てもその公務と比べても遜色のない公務なんだからな」
「あ・・・」
ピオニーは言葉を返せないその様子から話題を変えるのだが、その中身に思い至ったナタリアは小さく声を漏らす。アッシュがアクゼリュスに行かなかったのは別の大きな公務をしていて、ナタリアが会いに行くにしてもライマ国外に既に出ていて関わることが出来なかった事を思い出し・・・だからこそアクゼリュスに行くとなったルークに付いていこうとナタリアは考え、動いたのだが・・・
「・・・アッシュの事について思い出したようだから言うが、アッシュが今行っている公務もそれなりの規模の物だ。他国に行き、各国の友好関係を築くという失敗は許されんのだからな。だが成功すればその分の実入りが大きいし、余程の粗相がなければ失敗はまずない物と言えるタイプの公務でもある・・・その点ではアクゼリュス救助も似たような物だ。殿下はこう言った言い方は気に入らんだろうが救助活動自体は同行する兵達が行えば済むし、各国の人間と恙無く交流をすることが大きなウェイトを占めている部分があるからな」
「っ、アクゼリュスの方々は苦しんでいたと言うのにその言い方は・・・」
「だから殿下は気に入らんと言っただろうが・・・まぁそれも殿下が勝手にアクゼリュスに行ったことにより、大分大きな借りをウッドロウ達に作ることになったことで台無しになったがな」
「っ・・・!」
そのままアクゼリュス救助が今のアッシュの行う公務に色々似ている事をピオニーは説明するのだが、その政治的な視点でしか物を見てない言い方にナタリアはカチンと抗議の声を上げる。しかし既に政治的な視点で先の失敗を上げられナタリアは声を詰まらせ、すぐに反論出来なくなった。
「・・・本来ならもう少し時間をかけた後にルークにも同様の公務を行おうと思ってもらっていたんだ。ちゃんと時間をかけて用意をした上でな。現に今アッシュが国外に出て長期間ライマを留守にしていることもそう言ったこちらの用意に加え、他国とのすり合わせを行った上での事だ・・・それだけの規模の物を譲ってもらえばいいだと?何様のつもりだ、お前は?」
「っ!?」
ピオニーは続けて元のルークの公務のやり方についての予定及び、アッシュの今の公務についてを引き合いに出すのだが・・・最後に明らかに今までの殿下呼びから一転した吐き捨てるようなお前呼びで、ナタリアを一気に驚愕させた。
「そこまでして時間に手間隙をかけて行う仕事と言う物の成果を受け取るべきなのはその仕事を行う者であるのは普通であり、当然の事だ。しかしそれを譲らせろと上の立場から言うのは命令どころの問題ではない・・・最早簒奪とすら言っていい行為だ。ましてや自分の仕事を放棄しても平気でいるような輩から言われれば尚更と言える」
「し、仕事を放棄って・・・」
「お前がルークを追いかけ、アクゼリュスに付いていったことだ・・・あの時出発前から今日に至るまで、本来ならお前がどれくらいこなさなければならなかった公務があった?数に中身は答えなくていい、出来るだけ詳細に思い出してみろ」
「あっ、あれは・・・皆様なら私の気持ちを分かってくれると思って「分かってるのなら俺がこんな形でこの事を言い出すわけがないと言うことは分からないのか?」・・・っ!」
だが全く苛烈さを緩める事なく話を進められた上で投げ掛けられた問いになんとか言葉を返そうとしたが、すぐさま言おうとしたことを見透かされて否定を返されたことにナタリアは頭を殴られたかのように青ざめてフラりとさせた。そんな事実は一切ないと、ハッキリ突き付けられた事で。











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