善意は必ずしも報われるとは限らない

「・・・さて、ナタリア。貴女からして今の状況は不本意でしょうがそろそろ涙を拭いて帰る準備をしてください。ライマで受け入れる住民の方々を乗せた船をこちらの都合で遅らせる訳にはいきませんからね」
「・・・はい・・・」
「それと帰りの貴女の護衛についてですが、引き続きガイに行ってもらいアニスにルークの護衛に就いてもらいます。本来なら私とアニスの二人で貴女をライマに連れて帰るとなるところですが、陛下に報告の手紙を出したら障気の研究班に引き続き入れとの事ですので私はまだここに残らなければなりません。その上で何故アニスに任せないのかと言えば、今の貴女ならそう心配はいらないと思いますがもし実力行使に出た場合を考えて貴女を取り押さえる役目だからです。アニスと貴女では戦闘経験の差を差し引いても少々相性が悪いですからね。遠巻きに矢を射られたなら近付くにしても術を使うにしても手こずるでしょうから」
「!」
もう反論も出なくなった姿にジェイドが改めて帰るように言えばナタリアは袖で涙を拭いながら答えるが、更に続けられた言葉にまたビクッと体を揺らした・・・自分の事を本気で逃がすつもりはないし、信用してないと言わんばかりの対応を取られてると否応なしに感じた為に。
「・・・ではガイ、後は頼みましたよ」
「あぁ・・・じゃあ・・・」
「・・・はい、行きましょう・・・」
そんな反応には全く触れずもう出るようにとガイに言い、複雑そうに声をかけるガイにナタリアはもう力なく頷き二人で場を後にする以外に出来なかった。
「・・・さて、皆さんすみませんでした。このような事に協力していただいて・・・特にサレ。貴方が素直に協力してくれるとは思っていませんでしたよ」
「フフフ、気にしないでいいよ。十分に楽しめたからね、今のでさ」
「・・・そうですか」
それで二人がいなくなった事を確認してジェイドが礼を言いつつ話をサレに振れば、ルーク達の前ではまず見せたことない上機嫌な笑顔で返してくる姿に当たり障りない一言で返す。



・・・今この場にいるメンバーとサレの関係はお世辞にもあまりいいものとは到底言えないどころか、むしろ悪いと言った方が手っ取り早い物であった。主にサレが穏やかな人間関係だとか平穏と言った物を嫌い、むしろ争いや人の妬み嫉みであったりの負の感情を好む性質であったために。

それ故にここでアンジュを除いたメンバーと顔を合わせてからもウリズンの代表者としてその場に残ることなく、率先して代表者達の中から直接の現場での救出作業の指揮者という位置に就いた。尚その事に関して現場にいたナタリアから貴方も作業に参加するのかと喜色めいたように言われたが、あくまで現場の指揮者だからと丁寧な口調でサレは否定を返していた。

・・・まぁそんな人物ではあるが、ナタリアの問題行動に関しては証言の為に場に同席してほしいとジェイドは伝えた。半ばまず断られるだろうと予想した上で、場にいてくれたとしてもこちらの思惑通りに動いてくれないだろうと思いながら。
だがその考えは予想もしない形で裏切られた。ジェイド達の方に味方をするという形で・・・しかしそれも言ってしまえば王女という立場の人間を非公式にとは言え罵倒出来て、更に言うなら余程ズレた事を言わなければ寧ろ歓迎されると言った状況にあったからサレは嬉々とジェイドに味方したのだ。



「ただ僕の事よりいいの?彼女、自分の行動がどんな事を引き起こしてるのか本当の意味で理解出来てるとは思えないけど」
「・・・そこについてはピオニー陛下から説明されますよ。今ここで話をしても意味がないどころか余計に話がこじれるのは目に見えてますし、私の口から言うよりピオニー陛下から申し上げていただいた方がナタリアには効くと思いますからね。ただ念のために言っておきますが、この場での事はあまりおおっぴらに口にはしないでください」
「フフ、分かってるよ。本当ならそうした方が面白いだろうとは思うけれど国の上層部は事を荒立てるなって言うだろうし、何より・・・言わない方が面白そうだしね。彼女にこれからのライマの事を考えると・・・その姿を思うだけで僕はもう満足だよ、フフッ・・・」
「「「「・・・」」」」
そんなサレからナタリアについて意味深な問い掛けを向けられジェイドが理解してるといった上で牽制の言葉を向ければ、一層サレは隠しもしないで愉快だと嘲笑を浮かべる。その光景にルークは何とも言えない複雑な表情で視線を背け、他の場にいた面々はそのルークへと少なからず同情の視線を向けた。











9/26ページ
スキ