善意は必ずしも報われるとは限らない

「よろしいですか?まずルークとガイは貴女が勝手にライマから抜け出て船に乗っていた事を快く思っていませんでした。それはどうしてなのかお分かりですか?」
「それは・・・私が城を抜け出てまで来たからなのでしょうが、それは必要な事で全て終わればルーク達や陛下も私のやったことを知れば思い直してくれますわ!」
「ではお聞きしますが貴女は何故貴女がいなければならないと思ったのですか?アクゼリュスの救援に」
「え・・・?」
ジェイドがそこからゆっくりと確認の声を向けるとナタリアは徐々に語気を強め自分の存在は必要だと叫ぶが、自分が必要な訳を言えと返されキョトンと目を丸くする。
「このアクゼリュス救援にはルークという責任者にガイという護衛に加え、ライマの兵士達という救援に際して必要と思われる人材は揃っています。これがライマ一国だけであったらまだ現場の責任者であるとか細々とした役目を請け負う人材を厳選して人員を加えなければいけなかったでしょうが、各国と協力を結んでいる以上過剰な人数は却って混乱を招くことになりますのでその必要はありません。現にピオニー陛下もそう思われて貴女に同行を命じるような事はしませんでした・・・ここまで聞いて貴女が必要だという理由はどこにありますか?ちゃんと準備をしたのに、それを乱してまで自身が同行する理由が」
「そ、それ、は・・・」
そしてジェイドが次々く救助の為の体制の万全さを敢えて乱す理由はないだろうと述べ上げていく言葉に、ナタリアは先程の勢いが嘘のようにどもって視線をさ迷わせる・・・言ってみればジェイドの言葉は正論以外の何物でもないのだ。この救助の為にライマが万全の準備を期した物だという事の。流石にそう言われてしまえばナタリアも弱くならざるを得ない、のだが・・・
「・・・そ、そうですわ!ルークには政治経験がありません!このアクゼリュス救助が初めての政治経験になりますので、私はその助けになるために来たのです!」
・・・ナタリアの強味であり弱味は、自分の意志を余程でなければ曲げない我の強さにある。
さもそれこそが本命の目的と焦りを払拭するよう笑顔を作りまくし立てるのだが、周りの面々は各々表情の歪みを更に深めていた。
「・・・貴女がそうおっしゃるのでしたら、こちらもそれ相応の反論をさせていただきますよ」
「えっ・・・?」
「まず貴女はルークの為に来たとおっしゃいましたが、でしたら船を降りてウッドロウ達の姿を見た際にルーク達より先に話しかけたのはどうしてでしょうか?」
「それは、二人に会えた喜びと、私達が代表になってここに来たことをお伝えしようと・・・」
「私達、と言うのは語弊がありますねナタリア。貴女はライマの代表ではありません。無理矢理に付いてきただけです。そしてその事こそがリオンが言ったように二人だけでなく、この場にいる皆さんの不信を買うきっかけなんですよ」
「なっ・・・!?」
一人ジェイドは表情を冷たい物へと固定して話を進めていき、ナタリアは問いに恐る恐る答えていく中で告げられた言葉に絶句した。訂正を入れられた上でその事からだと予想もしていなかった言葉に。
「貴女は自覚などまるでしていないようなのでこういった形で言わせていただきますが、本来国と国の代表同士が会うとなれば当人同士が話をするのが普通になります。何故かと言えばこちらの代表が話をしているのに向こうは代理の人間が口を出すなどと言った行動は、まず普通に考えれば自分達の事を対等と見ない格下相手に取るような言語道断の行為と見られるからです・・・その点を踏まえて聞きますがルークを差し置いてウッドロウと話を我先にとする貴女の行動は、一応彼を助ける為に来たという貴女の行動として相応しい物と言えますか?そして更に言うなら本来付いてくるべきではなかった存在に役目を奪われたルークの立場という物を自分が貶めていると考えませんでしたか?・・・自分がその立場に立ったと思って考えてみてください」
「・・・っ・・・っ!」
・・・おそらく最後の立場を置き換えろとの言葉がなければ、ナタリアはそんなつもりはなかったとでも言って難を逃れようとしただろう。だがナタリアはプライドの高さは自他共に認める程に相当に高い上、気安い心でいられる場でならともかく格式ばった礼儀作法に関しては他者にずけずけ物を言う程には気が強くて一応の知識は伴われている。
ジェイドの言葉にハッとした上でナタリアは青い顔を浮かべて声を失った・・・自分の行動がいかに礼儀作法から逸脱した物なのか、それを感じたのだろう。









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