善意は必ずしも報われるとは限らない

「ようやくライマからも船が着きましたわね!これで住民の方々の救助もはかどりますわ!」
・・・数日後の展望室内には、遠目にライマの船を確認して意気揚々としたナタリアの姿があった。そしてその隣には本来ルークの護衛であるはずのガイが思い詰めた顔を浮かべそうになっていて、研究に戻ったリタを除いたルーク達はその周りで何とも言えない沈黙を浮かべ、数日前の場にはいなかったある男は一人・・・壁に背を預けながら腕を組み、楽しげに口元を歪ませていた。
しかしナタリアは周りのそんな微妙な空気に一切気付かない。ジェイドはその状況に眼鏡に手を当て、口を開く。
「えぇ。そして貴女には住民の方々と共にライマに帰っていただきますよ」
「・・・え?何を言っているのですか、ジェイド?今の状況で私にライマに帰れと?」
「はい、そう申し上げました」
そして口にされたのは帰るようにとの言葉。だがナタリアは意味が分からないと確認の声を向けるが、ジェイドが間違ってないと頷くと一気に眉を怒りに染めて上げた。
「何故私が帰らなくてはいけないのですか!?折角住民の皆様を順調に救助出来ているというのに!」
「勘違いしないでください、これは私の言葉ではありません・・・ピオニー陛下からのお言葉です」
「っ!?・・・陛下から・・・」
すぐさま有り得ないと指を向け怒りを叫ぶナタリアだが、眼鏡から手をどけた冷静なジェイドのピオニーと出した名にさしものナタリアも動揺する・・・前ライマの王であったインゴベルトならナタリアは直接の血の繋がりという関係もあって動じなかっただろうが、今の王であるピオニーには流石にそこまで気安くは出来なかった為に。
「詳細はこちらに書いていますが、これは後でご自身でお読みください。今は私の口からその手紙に書かれているライマに戻らねばならぬ訳をお伝えします」
「な、何故今そのような事を・・・貴方が来た時にその事を言えばよかったではありませんか・・・」
「理由は様々ありますが、今この場でお伝えする事が一番の理由ですよ・・・皆様がいるこの場でね」
「えっ・・・えっ・・・えぇっ・・・?」
ジェイドは懐から手紙を取り出し手渡した上で理由を口頭で述べると言うと、ナタリアは動揺に震えながらも何故今と問う。その答えに何故皆と思うナタリアは辺りを見渡すのだが、その表情を見ていく内に困惑を深めていく・・・全員が全員同じ感情を持っている訳ではない。だが呆れに戸惑いに哀れみ、そして壁際の男にまで気を回せずに見逃したが嘲笑と敵意ではないにしてもプラスの感情ではない表情でナタリアを見ていたのだ。今までこのメンバーからそのような表情で見られたことがないことが、ナタリアの困惑を招いていた。
「・・・まだ心の準備は出来ていないようにお見えしますが、救助の船が港について住民を乗せて再び出港するまでに話を終えたいので進ませていただきますよ。各国の船は続々とこちらに来ていますが船をつけれる場は限られていますからね。時間を取られて救助に遅れをきたす訳にはいきません」
「ちょっ、ちょっと・・・」
更に余計な時間は使えないとばかりに話をするジェイドにナタリアは更に困惑を強め、止めようとする言葉にも力が出せずにいる。
「ではその理由に関してお話ししますが・・・それは貴女が陛下の許可なく、無断でアクゼリュスまで来たと言うことです」
「っ、それはいいではありませんか!私はこのアクゼリュスに来て住民の皆様の救助に尽力しています!むしろ私も共に行った方がいいという声を陛下が聞いていただけなかっただけで、陛下もこの結果を聞いていただければ納得していただけますわ!私が行った方がよかったのだと!」
「・・・成功だとか失敗だとか、納得だとか不満だとか・・・そういった次元で収まるような話なら、わざわざ私が派遣されるような話ではないんですよ」
「っ・・・!?」
しかしジェイドから明らかにされた理由に我が意を得たりと言わんばかりにナタリアは一気に自分の功績をまくし立てるのだが、明らかに失望しているとしか取れない声の落とし方と冷えた目に目を見開き冷や汗を浮かべて声を失ってしまった。







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