「ですがそのエンゲーブで最悪の再会を二人はしました・・・貴方の妹という存在と」
「・・・っ」
・・・シュザンヌの表情が微笑から明らかに冷たく、嫌悪に満ちた物へと変わる。明らかな空気の変貌に、ヴァンは息を呑む。
「二人がエンゲーブで宿を取りゆっくりしていた所をティアとやらが同じよう宿を取るときに再会をしたそうですよ？その時貴方の妹がなんと言ったかお分かりになりますか、ヴァン？」
「・・・いえ、なんと言ったのでしょうか？」
「貴方達があんなことをしなければこんなことにはならなかった、余計な事をしてくれたわ・・・だそうですよ？しかも明らかに警戒をしながら二人に武器を構える形で、だそうです」
「・・・っ！」
そしてすぐに訳を知ることとなったヴァンは流石に言い訳の出来ない程の暴挙に、驚愕のまま目を見開いた。そして理解もした・・・シュザンヌがどれだけ怒りを覚えているのかということも。
「どういう教育をしてきたのですか、貴方は？屋敷に侵入してきただけでは飽きたらずそれを迎え撃ったクラマとルークに対し、余計な事をしたと逆恨みをし武器を向けるなどと・・・どんな常識を教え込めばあぁなるのでしょうね。自分の思惑がうまくいかなかったら威圧するような態度を容易に取れるなどとは・・・私にはとても真似出来ませんわ。そのような厚顔無恥な態度を取らせるような教育を施すなどね」
「・・・返す言葉も、ございません・・・」
怒れる母親の力は凄まじく、その上妹が自分でもフォローしきれない失態を犯してしまった事から流石にヴァンも言い訳の言葉すら浮かばず頭を下げ謝罪をか細い声で述べる以外に出来なかった。



・・・ティアの常識。これがどれだけずれているかはもう蔵馬達の間では当然の出来事である。とは言え蔵馬が鞭で叩き落としルークが蔵馬の身を守ったというだけで、敵と認識し場をわきまえず武器を構えた時は流石に蔵馬も逆ギレ及び状況判断力の無さにも程があると感じていた。

そして更に・・・



「まだあるのですよ？あろうことかそんなことをしたというのに一人で勝手に納得して武器を納め、こうなったのは私の責任だから私には貴方達をバチカルに送る義務があるとね・・・」
「それは・・・っ！」
「フフ、信じられますか？今さっきまで武器を向けられていた相手から、そのようなことをのうのうと言われて信じられる訳あるはずないでしょう・・・勿論二人はそれをきっぱりと断り、二人で戻りましたけどね。更に言うならそんな二人の判断をティアとやらは義務だからと高圧的に押し付けようとしてきたとの事らしいですよ」
「・・・」
尚も明らかになるティアの独善で愚かな行動にヴァンの顔色が更に悪くなり何も言えなくなる。
・・・それはそうだろう、自分を殺そうとする相手の事をすぐ信じる者などいるはずがない。それを理解しようともせず自分の方が正しいのだと言う奴など尚更だ。
「クラマが言うにはまだまだ他に問題があったということらしいですが、まぁその事には今は触れないでおきましょう・・・本題に戻りますが、そのティアとやらは今バチカルに向かってきているそうです」
「！？そんな、何故・・・」
「さぁ、その心中など分かりませんし分かりたくもありませんが・・・その時が貴方共々ダアトの威信とやらが終わる時です。精々覚悟なさるとよろしいでしょう・・・兄妹共々首を並べられるその時をね」
「・・・！」
そして最後にとどめと言わんばかりにティアがそろそろ来るからその時が命の終わりと思えと付け加えられたシュザンヌの冷笑付きの言葉に、ヴァンの顔に焦燥と脂汗が浮かんだ。
「もういいだろう、シュザンヌ・・・行くぞ」
「えぇ、わかりました・・・ではごきげんよう」
「・・・っ！」
そこに公爵が歯止めをかける言葉をかけたことでシュザンヌは言葉を止める。そして牢を出ようと公爵が踵を返した時のシュザンヌの一礼に、既にヴァンは言葉を無くしていた。







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