命に差はない、だが意識に差はある

「我らが食糧を盗んだのは同胞がライガの森を焼いてしまったからです」
一際歳をくったチーグルの長老が目の前にいる三人に事情を説明する。
「ライガ・・・!?」
チーグルの言葉を受けて、イオンが驚きの声をあげる。長老はイオンの様子を見ながらも、自ら話を続ける。
「森を焼いた我らにライガの近くにいた人間がこう言ってきたのです。『住家を新たに再生するまで、食糧を用意してほしい。さもなくばチーグルには災いが降り懸かる』・・・と」
「人間・・・?その人の特徴はわかりますか?」
「何かマントのようなもので全身を羽織っていたので顔はわかりませんでしたが、背格好はそちらにいる紅い髪の人程です」
「え・・・?アリエッタではない・・・?」
自分の予想が外れ、イオンは何か考える体勢に入る。しかしそれを意に介することなく、今度はティアが長老に質問を開始する。
「住家を新たに再生って、どういうことなんですか?」
「それは私にもわかりません。ですが、その人間は数日もあれば森は再生するのでそれまでは食糧提供と住家は貸し出せと言ってきました。ライガの住家を焼いた我らはそれに従っているまでです」
すると、そこに考える体勢に入っていたイオンが長老に向き直る。
「・・・ライガと会話をしに行きましょう」
「何故だ、導師イオン」
そこに盗っ人扱いされてキレまくっていたルークがイオンに質問する。
「このままではチーグルもエンゲーブの人も食糧の事でずっと悩むだけです。だからライガには申し訳ないんですが、この森から一刻も早く出ていってもらった方が・・・」
チーグルの長老はその言葉にぴくりと、眉を上げ反論をする。
「このことはライガが悪いのではなく、我々が悪い・・・」
「そうですね、一刻も早くライガをどうにかしたほうがいいです」
「考えてみれば俺が食糧泥棒などとふざけた事の濡れ衣もライガとやらのせいだ。俺も行くぞ」
しかし長老の反論はルークとティアのイオンへの同調の声で掻き消される。
「お、お待ちください!あなたがたの言い方では話し合いではなく、まるでライガを退治に行くと言っているように感じます!」
このままでは自分の意見を遮られたまま話が進んでしまうと感じた長老は、大声を出して場を制する。
「大丈夫ですよ、僕たちは話し合いをしに行くだけですから」
長老の言葉にイオンは笑顔で対応するが、懸念はイオンではない。長老の不安は寧ろ後ろの二人だ。
「・・・ではライガの所に行くというなら通訳を付けましょう。ですがライガの機嫌を損ねるような事だけはやめていただきたい・・・後ろの二人も同様です・・・くれぐれもお願いしますぞ」
確かにイオンならば穏便にすませようとするだろうが、後ろの二人は気性の激しい対応をとることを辞さないように長老からは感じられた。自分達はライガに引け目を感じていて、またライガに迷惑をかけたくない。そう思っている長老は念を押す。
「えぇ、わかっています」
そこで聞きたいのはイオンからの了承の返事ではない・・・そう思った長老だったが仕方ないので、イオンの導師としての裁量に期待するしかないと後ろを向いて通訳の役目の者を呼んだ。





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