蔵馬をルークの義理の兄にしたらこうなった 掌握・策謀・攻勢

・・・妖怪として長い時間過ごしてきた蔵馬。そんな妖怪としての生の中で、自分が身に付けてきた常識は一応人間においても妖怪においても比較的まともな物であると自負している。しかし同様に敵対する者に対しての情けに倫理観は躊躇いなく捨てれる。それこそあらゆる意味で存在抹消に証拠隠滅など容易く出来るとも自負している。

だがだからこそ蔵馬には許せない物があり、魔界にすらその頭脳に並ぶもの無しとまで言われる智謀を振るい潰してもいいと思える者達がいた・・・















・・・バチカルの港にて、ある一つの船の前にて白光騎士団を後ろに従えるセシル少将の姿があった。ファブレ公爵の懐刀と呼ばれる彼女が凜とした姿を見せ船を見つめるのはある二人の存在を待っているからである。その存在とは・・・
「っ!・・・クラマ様、ルーク様、無事の御帰還何よりでございます」
「あぁ、ご苦労様です。セシル少将」
・・・今船より出てきた蔵馬とルークの二人の事である。
二人の存在を確認し綺麗な敬礼をするセシル少将に、蔵馬は女性ですら見惚れる微笑を浮かべその出迎えに応える・・・その姿は‘以前’の時のよう若々しく、まごうことなき青年と呼べる姿であった。
「義父上はどちらに?」
「公爵は屋敷においでです。クラマ様とルーク様がおいでになられたらすぐに屋敷に連れ戻られるよう、仰せつかまつっています・・・その後はクラマ様のおっしゃられたようになさると、公爵は言われております」
「そうですか・・・ではルーク、行こうか?義母上も首を長くしてお待ちだろうからね」
「はい、義兄上!」
笑顔もそこそこに目を細め真剣な顔付きになる蔵馬に、セシル少将は意味深な響きをもたせながら丁重に返答を返す。答えに満足した蔵馬は隣にいたルークに優しげな微笑みを向け戻ると言えば、ルークは満面の笑みを浮かべ元気のいい同意を返した。
「・・・ルーク様、羨ましい・・・けどクラマ様の笑顔久しぶりに見れたから、嬉しい・・・はぅ・・・」
・・・尚、その時かなりの小声で蔵馬の人間離れした聴覚をした耳に羨望が多大にこもった声が届いてきた。その声が誰からなのかはあえて蔵馬は詮索しない・・・詮索する必要もないから詮索しないのである。






・・・そんな白光騎士団の護衛を受けながら蔵馬とルークの二人はバチカルの中を悠々と闊歩して、ファブレ邸まで辿り着く。そして玄関を開けた先で二人を待ち受けていたのは・・・
「おぉクラマ、ルーク!ご無事で何よりでした!」
「・・・母上・・・」
勢いよく二人を巻き込むよう抱き着いてきた、公爵夫人のシュザンヌであった。
その熱い抱擁にルークは少し感慨深げに昔と違い健康その物となったその体をそっと抱き締める。無論蔵馬も慈愛の笑みを浮かべ、その背中に手を回している。
「シュザンヌよ、嬉しいのは分かるが少し自重してくれ。これでは話が聞けぬ」
「あらあら、貴方ったら。そう言う割には表情が少し緩んでおりますわよ?」
「むっ・・・」
そこにシュザンヌの後ろからファブレ公爵が仕方なさそうに声をかけるが、振り向いたシュザンヌのイタズラっぽい声色の指摘に少し厳めしく表情を歪める。そんな顔になっていると思っていなかったのであろう。
「ふふ、冗談ですわよ」
「うっ・・・シュザンヌ、からかうのはやめてくれ・・・」
だがまたイタズラな声色で冗談と聞き、公爵はやられたと言わんばかりに誤魔化すよう顔を背ける・・・本来であったならこのような一般家庭のような光景が見られるというのは有り得ないのだが、周りのメイド達も執事のラムダスもこの光景を当然の物として微笑ましく見ていた・・・とは言えあくまでこれは一部を除いて、の事である。
「義母上、義父上をからかうのもそこまでにしてください。それにまたやるべき事があるのでしょう?」
「えぇ、そうでしたね。では貴方?」
「うむ。クラマ、ルーク。付いてきなさい」
「「はい」」
だが今はふざけあうための時間ではないと気を引き締める為に言葉を投げ掛ければ、シュザンヌは頷くも少し惜しまれつつも二人から離れファブレ公爵も頷く。そして付いてこいと言うファブレ公爵に二人が頷けば、ファブレ公爵とシュザンヌは玄関を出んと動き出し蔵馬とルークは通路を空けた後二人に付いていくようファブレ邸を後にした。









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