蔵馬をルークの義理の兄にしたらこうなった

・・・南野秀一という人間に融合に近い憑依をした妖怪、蔵馬。

自身を仕留めんとした追手の手により重傷を負わされ、生き延びる為には仕方無く人間にとりつかねばならないほどにまでなった。そこで選んだ、いや選ばざるを得なかった肉体はまだ産まれてすらいない赤子だった。あまりにも衰弱が酷かったが為にそんな存在にしかとりつく事が出来なかったからこその選択だ。

そんな南野秀一という人間の肉体に融合に近い憑依をした蔵馬は単に妖怪であった頃には覚えなかった情を覚え、激しい戦いを仲間と共に戦い抜いた。その結果蔵馬としても南野秀一としても、蔵馬は満ち足りた人生を送れる程に成長することが出来た。

・・・しかし始まりがあれば終わりもある。南野秀一としての顔も持つ蔵馬はほぼ前例のない自身の体について、ある考えを抱いていた。















「・・・暇が欲しい?」
「あぁ」
「・・・何故だ?」
・・・かつて蔵馬が盗賊団の頭だった頃、殺そうとした盗賊団の副頭目だった男であり、巡りめぐって関係は逆転したものの再び組む事になった男・・・黄泉。
殺されかけた時の結果により視界を無くし目を閉じたまま蔵馬を怪訝そうにテーブルに肘をつきながら見つめる黄泉に、妖狐姿の蔵馬は冷静に返す。
「『南野秀一』の肉体の憑依を解くのは出来ない、とは前に話しただろう。本来なら俺もそのままでも構わないと考えていた・・・だがこのままでは面倒な事になりかねない可能性が出てきた」
「なんだ?」
「『南野秀一』と『蔵馬』の肉体が中途半端に繋がっているせいで、人間としては高齢まで生きれるが妖怪としては中途半端な時間しか生きれない可能性だ」
「何?」
その話題の中心は自身の体の事。蔵馬の言葉の意味することに黄泉は表情を少し険しくさせる。
「どういう事だ?」
「これが単なる憑依だったなら『南野秀一』の肉体の寿命と『蔵馬』の肉体の寿命は別物になっただろう。そして融合だったなら妖怪として人間より力を持つ『蔵馬』の肉体に寿命は引かれて人間の寿命は関係無くなっていただろう・・・しかし回復した後の事を考え人間の肉体を捨てる事を考えていた俺は憑依程度で終わらせようと考えていたが、融合に近くなったのが誤算だった・・・これは最近俺が感じたことだが、人間の姿でいることにキツさを覚えるようになってきた」
「・・・確か人間で言えば『南野秀一』の肉体はもう80に差し掛かる頃か?」
「あぁ。見た目が中々老化しないから特別に配合した植物を使い年相応に変化はさせてはいるが、今までは年齢を重ねてもキツさを感じたことはなかった。だが最近はそれを感じるようになっていた・・・それで俺は考えたんだ。この原因をな」
「それでその融合、という結論に思い至ったのか」
「そうだ」
・・・妖怪という存在は総じて長命だ、殺されない限り何百年単位でピンピン生きる者はそれこそ魔界を探せばザラにいる。
そんな状況で妖狐でもある蔵馬は自身の身に起きた異変を真剣に考え、その理由を自身の状況にあると見ていた。人間界における世間一般の常識からは今の自分は高齢とは言え、妖怪からはさして高齢ではないのだから。
「そう考えれば大隔世を果たした幽助は人の理から外れ妖怪となってからはあまり見た目に歳を取る事もなくなり、時々は人間界に出てはいるようだがこの魔界に身を置いている。人間に不必要な警戒を持たれない為にな・・・それに俺もそろそろ『南野秀一』としての生涯を終えなければ不自然になってくる・・・まぁ見せ掛けの葬儀をする分には別に問題はない。協力してくれる者は十分にいる。だがそうなれば俺はもう『南野秀一』である必要は無くなるが、人間である人生を終えるというのにこのままでは・・・な」
「・・・『蔵馬』として生きる為にはその体のままでは不都合が生じてくるという訳か」
「それもある・・・が、元々『南野秀一』の体は借り物であり俺の体でもあった。だからそれを真実俺のモノにするのと、『南野秀一』を人間として終わらせる為にもしばらく時間が欲しい。俺のケジメの為にな」
「そう言うことか」
そこで妖怪となり人の寿命とは異なり身の上になった幽助を引き合いに出しながらケジメをつけたいと言った蔵馬に、黄泉も納得して微笑を浮かべる。
「だがケジメとは・・・お前も随分と人間臭くなった物だ、蔵馬」
「否定はしない。それとも俺に幻滅したか?」
「フッ・・・昔の氷の笑みを張り付けていたお前より扱いやすい分、今の方がマシだ」
「・・・フッ、ハハハハハハ・・・ッ!」
「フッ、フフフ・・・」
・・・そこから二人の間だからこそ通じる皮肉を交わした事で、二人は心から楽しそうに笑った。互いに昔の殺伐とした関係を思い出しながら、互いに変わった事を愉快に思いながら・・・







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