異端者と逆行せし者達の協力

「普通、だ。記憶喪失なんてそんな重病にかかったら医者から注意すべき事くらい言われるはずだ。治る為に重要な事はね。そんな時に君はルークにとって苦痛に感じるほど、記憶があるかどうかをいつも会ったら言っていた。これは言ってみれば強迫観念に迫られる行動であって、治療方法としてはあまり望ましくない劇薬に近い物だ」
「だ、だから言ったではありませんか!私は一刻も早く記憶を取り戻して欲しかったと!確かに医療の面からは誉められた物ではなかったかもしれませんが、それも貴方という本物が何も言わなかったからこそですわ!知っていたら私もそのようにはしませんでしたわ!」
「・・・君はいつもそうだったな。何も気付いてないからそんなことを平気で言える・・・」
「え・・・な、何を・・・」
まずはとゆっくり医療面から強制という力業を非難する声を向けるが、反対に自分が間違ってると返されラムザの呆れに諦めがこもった瞳がナタリアに向けられる。
「・・・確かに君の言うところの本物の記憶を持つ『ルーク』は僕になる。けど、それが僕が君との約束を覚えてない僕だったら君は僕を信じていたか?全てルークと同じように頭の中から思い出が抜け落ちた僕を」
「そ、それは・・・」
「ホラ、それが君の答えだ。そして同時に僕が君を信じられなかった理由でもある」
「え・・・?」
戸惑うナタリアに自分こそ記憶が無い自分が現れたならどうすると問うが、先程の元気をどこかに忘れ口ごもる姿にラムザははっきり告げていく・・・ナタリアから寄せられる好意は虚飾であると、本人自身にわからせる事実を。
「君にとって重要だったのは記憶の有無、もっと言うなら自分と同調してくれる理想の『ルーク』の存在だ。僕やルークの実像なんか君は必要としてない。ただ君は自らの理想という名の偶像だけを『ルーク』という存在にただ望んでいる」
「なっ!?い、いくら貴方でも言っていい事と悪いことがありますわよ!」
「ならば真剣に思い出してくれ。君はかつての『ルーク』をルークに重ねないでただ純粋にルークを見れたか?記憶の有無など関係無くルークを見れたか?」
「っ・・・それ、は・・・っ・・・!」
「そう、それこそが僕が君に何も言わなかった理由だよ」
尚も続くラムザの厳しい言動にナタリアは自身の想いは間違ったものではないと叫ぶが、ならば思い出してみろと突き付けられた言葉に過去を思い返し次第に目を見開き冷や汗をダラダラとかきだした。明らかにまずいことに気づいたと言った様子にラムザはナタリアの返答など待たず、話を続ける。
「君はいつでも記憶しか『ルーク』という存在に興味がなかった。その上君は全く記憶のないルークに記憶は思い出せればいいと思い直すこともなく、新しい関係を作ることもなかった・・・そんな現状を聞いて僕は思ったんだ。例え君はルークを受け入れろという言葉を言葉として受け入れはしても、心からは受け入れられないとね」
「そ、れは・・・そんなことは・・・」
「そしてそれは僕という存在をいかに勝手な見方で見ていたかを示す。『ルーク』は自分の思う事に答えてくれてこその存在で、そうでないなら否定し続け記憶が戻るまでは『ルーク』とは認めないという至って身勝手な代物・・・わかるかい?僕もルークも、いかに君の中にある君の『ルーク』しか求めてないその態度に頭を抱えたのかを・・・そんな君を僕もルークも信じたいと思わなかったから、父上と母上にも話した上で何も言わなかったんだよ」
「っ!・・・そん、な・・・」
・・・結局ナタリアは都合のいいものだけしか見ていなかった。自分にとっての理想だけしか。だがただ理想とだけ相対してきたことで肝心の現実であるラムザにルーク、果ては公爵達にまでそっぽを向かれる結果となってしまった。
求めてきたはずの『ルーク』を自分のせいで突き放してしまった、そう本人から理解させられナタリアはショックのあまりに頭をガクッと下げた。







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